私の最期

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私の最期

 暁人が宇宙へ出発する一週間前に、私は最期の時を迎えていた。でもそれは不思議な経験だった。突然、自分の身体から離れた私の意識はベッドの上の自分を見つめていた。ベッドの横で両親が涙を浮かべている 「先生! 杏奈さんCPA(心肺停止)です。波形出ていません」 「エピネフリンを早く!」 「VF(心室細動)です!」 「よし百五十ジュールで除細動するぞ! 離れて!」  電気ショックに私の身体が大きく跳ねる。それから先生は三回の除細動を行ってくれたけど、私の心臓は二度と動き出すことはなかった。  私の訃報を聞いた暁人が訓練を抜けて駆けつけてくれる。その顔は涙でグチャグチャだ。両親は泣きながら病室を出て行き、彼と私だけにしてくれた。 「アナ、君が居なくなったら僕が宇宙に行く意味がないじゃないか……」  突然、私は暁人の意識の中に引き込まれる。物凄い悲しみ、絶望。全ての夢が彼の中で崩壊している。彼は来週の打ち上げを辞退しようと考えているみたいだ。そんなのダメ! 何とかしないと。 (暁人)  暁人が驚いた様に周りを見渡している。 「えっ? アナ?」 (良かった、聞こえて。私の意識は貴方の中よ) 「そんな事が……。でもアナ、君は死んじゃって。もう僕は宇宙へ行っても仕方ないって思っている」 (そんな事はないわ。こっちへ来て!)  私は強引に暁人を病室の外に導いた。  二つ隣の病室に入る様に促す。その部屋には樹里ちゃんが補助人工心臓に繋がれて眠っている。 「彼女は?」 (私の再生心臓実験のバックアップの女の子よ。彼女も貴方のISS(国際宇宙ステーション)での実験の成功を待っているわ) 「この女の子も……」 (そして世界中には何万人もの臓器移植を待っている患者さんが居るわ。貴方の夢は宇宙へ行ってそんな人達を助ける医療技術を開発する事でしょう! そして私の夢は貴方がそれを実現させた時におめでとうと言うことよ)  私の言葉に暁人の中で大きな希望が首を擡げて来るのを感じる。 「そうだねアナ。背中を押してくれてありがとう」  意識だけの私は、多分、大きく頷いていたと思う。
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