36人が本棚に入れています
本棚に追加
拡張型心筋症
ゆっくり意識が戻って来た。目を開くと真っ白な天井が見える。右を見ると機械から伸びたチューブが私の身体に繋がれている。左を見ると……。
「……あきと……」
そこには驚いた様に私を見つめる暁人の顔が見える。
「アナ、気付いたんだね。先生を呼んでくるから待っていて」
そう言った暁人は直ぐに医師を引き連れて病室へ戻って来た。
私はプロムの会場で心停止になり、緊急病院に搬送されたそうだ。心停止は一時間近くにも及んだけど、緊急隊が到着するまでは暁人が心肺蘇生を続けてくれて、後遺症も無く目覚める事が出来た。でも、先生の病状の説明に私は衝撃を受けた。
「拡張型心筋症?」
「そうです。それも病状はかなり進んでいます。まずは内科的処置で進行を抑えていくしかありませんが、多分、アナさんの心臓はあと数年しか持たないと思います」
暁人も驚いた様に声を上げた。
「外科治療は? 心臓移植は?」
先生が首を横に振っている。
「アナさんのHLA型は特殊で、数百万人に一人の稀血です。この為、心臓移植の適合ドナーが現れる確率がほぼゼロに近いと考えられます」
「そんな……」
暁人が肩を落としている。
「人工補助心臓の埋め込みが唯一の延命策です。ただ、これはご両親とも相談して進める事にしましょう」
病院に駆けつけた両親と今後の処置について相談した。私達の家族の帰国は来月に迫っており、今後の治療は日本へ転院して行う事になった。そして私は翌週のフライトで緊急帰国する事になったの。
アメリカを離れる最終日、暁人が最後のお見舞いに来てくれた。
「暁人、ごめんね。帰国が早くなって」
彼が横に首を振っている。
「まずは、病状を安定させるのが先さ。僕も夢を叶えて、きっと君を迎えに行く」
「夢って……宇宙へ行く事だよね……?」
彼が頷く。
「そうだね。でもちょっと修正が必要かな」
「修正って?」
「僕はアナの病気を治せる医師になるよ。そして宇宙にも行く。無重量での新薬や医療技術の革新に貢献できる宇宙飛行士を目指すって決めたんだ。アナ、僕が絶対、君の病気を治してみせる」
そう目を輝かせる彼に、私は再びキュンとしていた。
最初のコメントを投稿しよう!