拡張型心筋症

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拡張型心筋症

 ゆっくり意識が戻って来た。目を開くと真っ白な天井が見える。右を見ると機械から伸びたチューブが私の身体に繋がれている。左を見ると……。 「……あきと……」  そこには驚いた様に私を見つめる暁人の顔が見える。 「アナ、気付いたんだね。先生(ドクター)を呼んでくるから待っていて」  そう言った暁人は直ぐに医師を引き連れて病室へ戻って来た。    私はプロムの会場で心停止になり、緊急病院に搬送されたそうだ。心停止は一時間近くにも及んだけど、緊急隊が到着するまでは暁人が心肺蘇生を続けてくれて、後遺症も無く目覚める事が出来た。でも、先生(ドクター)の病状の説明に私は衝撃を受けた。 「拡張型心筋症?」 「そうです。それも病状はかなり進んでいます。まずは内科的処置で進行を抑えていくしかありませんが、多分、アナさんの心臓はあと数年しか持たないと思います」  暁人も驚いた様に声を上げた。 「外科治療は? 心臓移植は?」  先生(ドクター)が首を横に振っている。 「アナさんのHLA(ヒト白血球抗原)型は特殊で、数百万人に一人の稀血です。この為、心臓移植の適合ドナーが現れる確率がほぼゼロに近いと考えられます」 「そんな……」  暁人が肩を落としている。 「人工補助心臓の埋め込みが唯一の延命策です。ただ、これはご両親とも相談して進める事にしましょう」  病院に駆けつけた両親と今後の処置について相談した。私達の家族の帰国は来月に迫っており、今後の治療は日本へ転院して行う事になった。そして私は翌週のフライトで緊急帰国する事になったの。  アメリカを離れる最終日、暁人が最後のお見舞いに来てくれた。 「暁人、ごめんね。帰国が早くなって」  彼が横に首を振っている。 「まずは、病状を安定させるのが先さ。僕も夢を叶えて、きっと君を迎えに行く」 「夢って……宇宙へ行く事だよね……?」  彼が頷く。 「そうだね。でもちょっと修正が必要かな」 「修正って?」 「僕はアナの病気を治せる医師になるよ。そして宇宙にも行く。無重量での新薬や医療技術の革新(ブレークスルー)に貢献できる宇宙飛行士(ミッションスペシャリスト)を目指すって決めたんだ。アナ、僕が絶対、君の病気を治してみせる」  そう目を輝かせる彼に、私は再びキュンとしていた。
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