36人が本棚に入れています
本棚に追加
再生医療の開発
帰国して五年が経とうとしていた。私は四年前に補助人工心臓の埋め込み手術を行って、何とか今も生きていた。でも私の心臓はもう限界で、一年前からずっと病院のベッドの上で暮らしている。
アメリカに居る暁人は毎日ビデオチャットをしてくれていた。暁人は大学でもトップの成績を取り続け、たったの三年で宇宙工学と医療の博士課程を修了していた。そして今はスペースYで宇宙飛行士候補生として勤務している。彼の専門は……。
「えっ? 再生医療?」
ある日のビデオチャットでスペースYでの仕事を聞いた私に彼がそう答えてくれた。
「ああ、そうだ。ES細胞から人の臓器を造る研究なんだ。アナの心臓も再生出来る筈さ」
「本当? 凄いね。直ぐに実現できそうなの?」
「残念ながら、ES細胞から受精卵と同様の全能性、つまりどんな臓器も作りだす技術は実現していない」
「そう……。でもどうしてスペースYでその研究を?」
「まだ仮説だけど、無重量環境がES細胞の全能化を実現する鍵かもしれないんだ。だからその研究をISS2でやりたい。三年後の実験枠を獲得する選考会が来月開かれるんだ。その選考会にチャレンジするつもりさ。選考されれば僕は宇宙へ行って、ISS2で再生医療の実験が出来る。そしてアナの再生心臓を造り上げてみせる」
パソコンの画面の向こうでそう宣言する暁人を見て、私は再びキュンとしていた。
その時、私は再び強い胸の痛みに襲われた。
「えっ? どうしたアナ?」
パソコンのスピーカーから暁人の声が聴こえる。急激に意識が遠のいていく。私は最後の力を振り絞ってナースコールのボタンを押した。
最初のコメントを投稿しよう!