再生医療の開発

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再生医療の開発

 帰国して五年が経とうとしていた。私は四年前に補助人工心臓の埋め込み手術を行って、何とか今も生きていた。でも私の心臓はもう限界で、一年前からずっと病院のベッドの上で暮らしている。  アメリカに居る暁人は毎日ビデオチャットをしてくれていた。暁人は大学でもトップの成績を取り続け、たったの三年で宇宙工学と医療の博士課程を修了していた。そして今はスペースYで宇宙飛行士(ミッションスペシャリスト)候補生として勤務している。彼の専門は……。 「えっ? 再生医療?」  ある日のビデオチャットでスペースYでの仕事を聞いた私に彼がそう答えてくれた。 「ああ、そうだ。ES(胚性幹)細胞から人の臓器を造る研究なんだ。アナの心臓も再生出来る筈さ」 「本当? 凄いね。直ぐに実現できそうなの?」 「残念ながら、ES(胚性幹)細胞から受精卵と同様の全能性、つまりどんな臓器も作りだす技術は実現していない」 「そう……。でもどうしてスペースYでその研究を?」 「まだ仮説だけど、無重量環境がES(胚性幹)細胞の全能化を実現する鍵かもしれないんだ。だからその研究をISS(国際宇宙ステーション)2でやりたい。三年後の実験枠を獲得する選考会が来月開かれるんだ。その選考会にチャレンジするつもりさ。選考されれば僕は宇宙へ行って、ISS(国際宇宙ステーション)2で再生医療の実験が出来る。そしてアナの再生心臓を造り上げてみせる」  パソコンの画面の向こうでそう宣言する暁人を見て、私は再びキュンとしていた。  その時、私は再び強い胸の痛みに襲われた。 「えっ? どうしたアナ?」  パソコンのスピーカーから暁人の声が聴こえる。急激に意識が遠のいていく。私は最後の力を振り絞ってナースコールのボタンを押した。
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