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暁人の帰国
次に目を覚ますと私はICUで、大きな機械に接続されていた。横を振り返るとそこには……。
「……えっと、パパ……」
そこには優しい表情で私を見つめる父の姿があった。
「杏奈、目覚めたね。心配したぞ」
「パパ、私はどうなって……?」
父の顔が少し曇った。
「一週間前に暁人君とのビデオチャット中に再び心停止したんだ。何とか蘇生できたけど、お前の心臓はもう限界だ……」
「そうか、もう……私、長くないのね……」
「まだ諦める必要はないぞ」
「でも私は他人からの心臓移植も出来なくて、暁人の再生心臓も三年後になっちゃうんでしょ?」
その時、父の背後から声が聴こえた。
「ISS2での実験を前倒し出来る可能性があるのさ」
背後から現れた男性を見て私は驚いていた。
「えっ? 暁人? 何で日本に?」
そこにはアメリカに居る筈の暁人が立っていた。
「スペースYを休職して、君の傍に居る為に帰国したんだ」
「えっ? それじゃ、貴方の宇宙へ行く夢が……」
「それは、大丈夫。もう一つの早い機会に挑戦することにしたんだ」
その言葉に首を傾げる。
「杏奈、私が説明しよう」
父が暁人の言葉に割って入る。
「安曇重工は半年後に新型ロケットH4を打ち上げる。その目的の一つだったALSの新薬開発実験が機器の開発遅れで取消しとなって、現在、別の実験の公募を行っている。一次選考は既に終わっていたが、私の力で暁人君の再生臓器実験を候補として最終選考に捻じ込んだ」
「それって……?」
「勿論、最終候補に暁人君の実験をそのまま残す訳にはいかない。この後、実験の選考プレゼンに合格すると共にJAXAの宇宙飛行士選抜試験を受けて合格する事が必要だ。だけど暁人君なら……」
父が暁人を振り返った。暁人が大きく頷いている。
「アナの為に絶対最終選考に残るさ。そして宇宙に行って君のES細胞から再生心臓を造り出してみせる。その為に、僕はどんな努力も惜しまないつもりさ」
ーーー
その日から、暁人は最終選考の準備をしながらも毎日私のお見舞いに来てくれた。そして自分の実験の内容や再生臓器開発の意義を熱く語ってくれた。
ある日、彼はいつもの様に私と話した後、ベッドに突っ伏して眠ってしまった。最終選考の準備は大変なのだろう。そんな中、時間を作って私の傍にいてくれる……暁人……。
「暁人、私の為にありがとう。愛しているわ」
私は膝の上の彼の頭を撫でながらそう呟いていた。
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