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夏。
燃えるような日差しが赤茶色のタータントラックを焼き焦がしている。その中で、フライパンの上の油のように跳ね回る選手たちを見ながら、俺は強く心に誓う。
今日の大会で必ずや三位入賞を果たして、三年間の努力の集大成としてみせると。
〇〇市陸上競技選手権大会。俺たち中学三年生にとって引退試合となる大会が今、始まろうとしている。
「西本師匠! お久しぶりです!」
「高田くん……人前で『師匠』はやめてくれよ」
試合開始前の召集を無事終え、俺が出場する競技、「走高跳」の跳躍練習に入った時、オレンジ色のユニフォーム、ゼッケン149番、高田くんが声をかけてきた。
彼とは昨年のこの大会で出会い、彼曰く「西本くんが一番空中動作が綺麗だった」ことから弟子にしてくれと頼みこまれ、半ば無理矢理連絡先を交換させられ、それ以来「師匠」と呼び慕われる仲だ。
「この前の師匠のアドバイス通り、空中で顎を引いておへそを見るようにしたら、自然にバーがクリアできるようになったんですよ! おかげで記録が5センチも伸びました。いやぁ、さすが師匠ですね!」
「そうなんだ。まぁ誰でもできる基本のアドバイスだと思うけど、高田くんのためになったなら良かったよ」
「いやいや、師匠だからこそできたアドバイスですよ。流石っす! 俺、一生ついていきます!」
目に見えたごますりだが、つい機嫌は上向いてしまう。中学入学以来三年間走高跳を続けてきて、それなりに必死に練習に打ち込んできたつもりだが、その成果をここまで褒めてくれるのは高田くんだけだ。同級生なのになぜか敬語なところも含めて、師匠と慕われることに悪い気はしていなかった。
だけど今日に限っては彼も倒すべきライバルの一人だ。
「そんなおべっか言ったって、手加減はしてやらないからな」
「そんなつもりじゃないっすよぉ。一緒に頑張って、なんとか表彰台目指しましょう」
「お互い、悔いが残らないように頑張ろう」
「はい! じゃあ俺練習跳躍してきますね」
走り去ってゆく高田くんの背を見ながら、俺は気を引き締めた。弟子であろうと、いや、弟子だからこそ、俺は彼に負けたくない。彼だけではない。俺は何としても三位入賞を果たし、三年間の努力を「表彰状」という形にしたい。そのために、今ここにいる30人の中から27人を蹴落とさなくてはならない。
負けるもんか。俺は両頬をパンッと強く張った。
数十分後、ついにその時はやってきた。
「それでは、これより走高跳競技を開始します」
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