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監禁生活三日目。
セシリアは王城の一室に秘密裏に閉じ込められていた。
接触する侍女は最小限。部屋の中での行動は常識の範囲内であれば自由にと言われていたが、外に出ることはおろか窓に近づくのも避けるようにと言い含められている。
「家に帰して頂くことができないなら、せめて扇作りの道具を頂けないでしょうか。道具や材料があれば、部屋の中でも仕事ができますので」
さすがに暇がこたえて、セシリアは部屋に顔を見せたウィルフレッドに願い出た。
「聞いている。君自身もなかなかの腕前らしいね。すぐに信頼できる部下を君の家へと向かわせる。必要なものを紙に書き出して」
ウィルフレッドは快く請け負って、紙とペンを侍女に用意させてセシリアに渡してくれた。そのまま、セシリアが書き物机に向かうと、横に立ってのぞきこんでくる。
「『助けて』『帰りたい』『浮気現場を見てしまったばかりに』なんて書かれるわけにはいかないから、見張らせてもらう。あの件については内々に進めているが、まだ漏洩されるわけにはいかない」
「しません。家族に迷惑がかかってもいけませんし。はぁ~……夜会になんか出ていなければこんなことには」
つい本音をこぼしながら、セシリアは紙に扇制作に必要な材料を書き込んでいく。
セシリア・ヴェローナ。平民であるが「国宝級」と誉れ高い技工を持つ扇職人の孫娘。
王城での夜会は、セシリアがウィルフレッドの妹にあたる姫君に献上した扇の出来栄えが褒められたことにより、特別に見学が許されて出席していただけ。
身元に不明な点はなく、王城から帰れない理由は「姫君が話し相手として慰留している」と家族には説明されているらしい。
実際には、ウィルフレッドに拘束されているのであるが。
「もう少しの辛抱だ。片が付けば家に帰す。口封じに殺したりはしない」
「殺……。いちいち脅かさないでください。裏も何もないド平民ですし、あの場にいたのも偶然。情報を漏らそうにも、噂話をする貴族の知り合いがいるわけでもないですし」
「だが、工房の仕事先には我が妹ミリアムをはじめ王族やバラハ公爵家など貴族がずらり、と。祖父君は叙爵を固辞していたそうだが、間もなく父君が男爵位を受ける。君もそれを見越して貴族に劣らぬ教育を施されてきたようだ。今はともかく、数年以内にこの社交界で君の名を知らぬ者はいなくなるだろう」
横顔に、ウィルフレッドの視線を感じる。
紙に必要な道具を書き終えたセシリアは顔を上げて、ウィルフレッドを軽く睨みつけた。
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