逢瀬を目撃した二人

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(秘密を知りすぎたけど、生きて帰してもらえた……。でも殿下は再三私に会いに来るって言っていたから、直々に監視を続けるぞ、って意味かしら)  工房に戻ると、家族も事情を察していた様子。不在の間の出来事を深く追求されることはなく、セシリアは仕事の日々に戻った。  そんなある日、大変なお客様が、と言われて戸口まで出迎えれば想像通りの相手。  晴れ晴れとした表情のウィルフレッドが「会いに来た」と爽やかに話しかけてきた。 「扇はほとんど元通りに。少し意匠を変えることも考えたんですけど、祖父の作品なので。持ち主様が国を出るまでが期限かと、急いで直しました」 「ん? いや、物を粗末に扱うような相手に、大切な扇を渡すつもりはない。捨てられるのを私が拾ってきたんだ。もちろん修理代は私が払うが、扇そのものは君が持っていて欲しい」  セシリアが返事に困っていると、「どうした?」と不思議そうに尋ねられる。 「殿下はアデリナ様を大切に思ってらっしゃるのかと」 「決められた婚約者として粗末に扱ったことはないが、愛情を抱いたことはない。特に今回の件ではおおいに幻滅した。縁が切れてほっとしている」 「そ、そうだったんですね。お二人の仲が復活すれば良いのにと私、願掛けまでしてしまいました」 「どのような?」  面白そうに尋ねられて、セシリアは王城にいた頃に作った、婚礼用をイメージしたレース扇を差し出した。手にとって、掲げてしげしげと見ているウィルフレッドに、「殿下のご婚礼のときにお相手の方にと思いまして」と未練がましく呟く。 「買おう。言い値で。素晴らしい扇だ。ぜひ妃となる相手に渡したい」 「ですが、ご婚礼の衣装もわかりませんし」 「準備はすべてこれからなんだ。この扇に合わせて仕立てれば良い。簡単な話だ。セシリア、手を出して」 「はい」  言われて素直に差し出した手の上に、純白の扇が置かれる。その上から、ウィルフレッドに手を重ねられた。 「高い技術を持つ職人として、君自身の叙爵も考慮されるだろう。仕事に関しては今後とも全面的に支持する。加えて君は私と秘密を共有している。この事実は王家でも見過ごせない案件とみなされていて、君の動向に王家は高い関心を払っている。そこで、もし君さえ良ければ、この扇の正式な持ち主となって欲しい。どうだろう」  言われた内容を真剣に考えてから「つまり」とセシリアは呟いてウィルフレッドの瞳を見た。  にこりと笑ったウィルフレッドは、「そのつもりであの日全部を打ち明けた。ぜひ検討してほしい」と悪びれない様子で言うと、もう片方の手でセシリアの手を下からも包み込んだ。
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