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骨組みは黒壇。
白鳥の羽と繊細なレースを組み合わせ、クリスタルビーズで刺繍を施した特級品。
(間違いない。あれはバラハ公爵令嬢アデリナ様へ納品した扇……!)
扇職人一族・ヴェローナ家の生まれで、物心ついた頃から工房に出入りしていたセシリアは、祖父の手業になる一品を見間違うことはない。
王城で華やかな夜会の開かれたその夜。
会場から抜け出して廊下を歩いていたセシリアは、庭に面したガラス戸が細く開いているのを目にした。外に出て涼しい風にあたろうと、戸を押し開けて敷き詰められた石床に踏み出したところで。
くぐもった話し声を耳にして、足を止めた。
押し殺した女性の呻き、男の荒い息遣い。
背筋がぞくっとする。この先に進んだらまずい。そう思いながらも、さらに数歩先まで足を伸ばして確認してしまったのは、万が一にも「それ」が犯罪絡みであったら、と考えてしまったせいだ。
身をかがめるようにして、暗く沈んだ庭の草木へと目を凝らす。だめよ、と甘く掠れた声が耳に届く。続いてくすくすくす、と秘めやかな笑い声。
(事件ではなく。これは男女の逢瀬ですね)
セシリアはそこで確信した。気づかれないうちに自分は立ち去ろう。そう思いながら視線を今一度すべらせたとき、見覚えのある品が視界をかすめたのだ。
夜の闇の中、発光するかのように白く滲む、白鳥扇。
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