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「トラブル続きで、暗い雰囲気だった事務所に、明るい話題が出来て良かったじゃない」
「ほんとだね」
私も当事者だったけど、後ろ姿のせいか、まるで他人事のように感じていた。それでもあの時の撮影がなかったら、今の私たちはない。
「一ノ瀬さん、現役復帰しましょうよ」
一ノ瀬さんの周りには事務所スタッフが集まり、復帰をするように言われていて、一ノ瀬さんはうんざりしていた。
約束通り、ポスターでモデルを務める筈だった女性は、唐沢さんと仕事をすることが出来て、満足していた。
私と一ノ瀬さんは、とてもしっくりときていた。
ぎくしゃくもしなければ、気を使うこともなかった。上司と部下でずっと一緒に働いていて、気心がしれた仲だったから、それが良かったのかも。
ただ一つ不満があるとすれば、社内恋愛がオープンな職場であっても、一緒というのは周りに気を使って、やりにくいと言うことだけだった。
「この時は最高に恥ずかしくて大変だったけど、私にとって記念の作品になったかも」
「凄くきれい」
「私は、後ろ姿だけどね」
「いいじゃない、背中で女を語る。そんな感じよ」
ポスターに使われたのは、一ノ瀬さんが私に、
「もう一度、俺と恋愛を始めてみないか?」
と言ってきたところだ。私の顔が少し見えてしまっているが、事務所のスタッフには分からないみたいで、ほっとしている。
一ノ瀬さんの裏工作も功をそしているようだ。
唐沢さんは、すべての写真を気に入ったらしく、この一枚を選んだあと、撮影した写真をアルバムにして一ノ瀬さんに渡していた。
「綺麗だった」
「背中よ?」
「俺には正面だった」
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