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瑞穂の強い口調に、少しびっくりした。何か間違ったことを言っただろうか。
「美緒は酷いことを一ノ瀬さんに言ったのよ? そんなことくらい分からないの?」
「瑞穂?」
険悪になって行く雰囲気に、渉は瑞穂を止めようとした。私の何がいけなかったのか、さっぱり理解が出来ない。
「一ノ瀬さんは美緒のことが好きなの。体調が悪くて最悪の時、好きな女が傍にいたら甘えたくなるでしょ? 辛くて不安になって美緒を帰したくなくなる。一人暮らしで病気になる辛さは、美緒も分かるでしょう? それとも、そんなことも分からない女性なの? 自分だけが可愛そうで、他の人はいいの?」
「酷い……」
「それにまだ告白された返事もしてないでしょう? 美緒は一ノ瀬さんを都合よく使って満足してるだけ、酷いのは美緒なのよ?」
「……」
「私にはもて遊んでいるように見える」
「瑞穂、言いすぎだよ」
「いつかは言わなくちゃいけないって思ってた。でも、傷つく美緒を見たくなかったの、だから言わなかったけど、いい加減目を覚まして現実を見て。眠れない日々を幾つ過ごすの? 一ノ瀬さんを一人の男として見てあげて。美緒、哲也君はもういないの、美緒が泣いても抱きしめてくれる哲也君はいないの、抱きしめてくれるのは一ノ瀬さんなのよ!」
「瑞穂! やめてくれ!」
渉が瑞穂を止めた。瑞穂の言う通り、私は一ノ瀬さんに酷いことをした。傷付けてしまった、大切な人なのに。大切な人……?
気が付けば、私の頬にはいつもと違う涙が流れていた。その涙の意味が分からないまま、私は店を飛び出していた。
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