眠れない夜をかぞえて

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この星空は私と哲也のものだけど、東京から見える星でもいい。私が癒されたように、忙しくしている一ノ瀬さんの癒しになってほしい。 電源を切っていたスマホを起動させると、渉、瑞穂そして一ノ瀬さんから連絡が入っていた。着信とラインが何度も送られていた。 「ごめん」 接触を切りたかったわけじゃなくて、どうしたいのかじっくり考えたかっただけ。揺れ動く気持ちの整理は、私自身が答えを見つけなければいけないもので、アドバイスでどうにかなるものじゃないから。 哲也と私の問題は、私が解決しなければならない。 「死んだ彼氏のことは忘れて、違う人を好きになったら、周りになんて言われちゃうんだろう」 心のずっと奥底に閉じ込めていた思いもある。それは自己嫌悪になるようなどす黒い感情だ。 今でも哲也が好き。それは嘘偽りない気持ちだけど、哲也は死んでしまっていない。それは事実。私はどこかで、自分の人生を止めていていいのだろうか、女としての幸せを掴んだらいけないのだろうかと、誰にも言えない心のうちを抱えていた。 異性に少しでもときめいてしまうと、自分を戒めた。だから一ノ瀬さんへの思いもいけないものとして、自分で処理してきてしまったのだろう。 月命日にお墓参りにいくと、哲也が恋しくて、恋しくて狂ってしまいそうになる。その反面、職場に行って一ノ瀬さんの姿を見かけるだけで嬉しかったりする。 瑞穂が拒否ばかりをするせいで、二人で仕事をすることが多くなっていた時から、私は一ノ瀬さんに惹かれていっていたんだ。 「待ってるよ」 一ノ瀬さんからは一言、このメッセージが送られていた。 「待っていて下さい」 一言一ノ瀬さんに送る。 まだまだ気持ちは揺れ動く。恋愛感情よりも、誰かと付き合っても、哲也を忘れることが出来ずにいて、そして付き合う人に気を使わせてしまうことの罪悪感。それを抱えては辛すぎる。だったら一人の方がどんなに楽かと思ってしまう。 ラインはすぐに既読がついたけど、返信はない。私をそっとしておいてくれる一ノ瀬さんなりの優しさだと受け取る。 私は一晩中星を眺めた。星は明け方まで光り輝いていた。
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