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住職は私に説法の様に話をして、手を合わせて行ってしまった。私の顔が変わったと住職は言った。住職の目には不幸せな女の顔に見えていたのだろうか。哲也を想っている間、私はずっと幸せだったのだから、住職が言ったことは違うと反論したい。
「私の幸せを願ってくれているのね」
私は自分の唇に指をあて、哲也の名前が彫られた墓誌にその指をあてる。
「私からの最後のキスよ」
お墓参りを終えて、まっすぐに哲也の家に向かった。
哲也に似たお母さんが出迎えてくれ、哲也に似たお父さんと仏壇に、一緒に手を合わせた。
「おじさん、おばさん……お話が」
私には二人に言うことがあった。それはとても勇気がいることで、これから言うことに、ご両親は悲しんだりしないだろうか。
「美緒ちゃんの話を聞く前に、私から話をしてもいいだろうか」
私の話を遮って、おじさんが言った。
「はい」
「……美緒ちゃん、もうここへは来てはいけないよ」
「え……?」
「美緒ちゃん、好きな人が出来たのね?」
おじさんに続きおばさんも何を言い出すのだ。
「おばさんには分かるわ。美緒ちゃん、とてもいい顔をしてるの」
おばさんは私の顔を見て、本当に嬉しそうに言った。住職と同じことを言う。そんなに私の顔は辛気臭い雰囲気だったのだろうか。
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