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私は心配をかけていた渉に電話をする。
『姉ちゃん!』
本当に心配をかけてしまった。渉は直ぐに電話に出た。
「そうよ」
『心配したんだぞ、何処に行ってたんだよ……瑞穂が、瑞穂が心配して』
「分かってるよ。あのね、お父さんとお母さんに渉から伝えて欲しいことがあるの」
『なんだよ』
呑気な私に、怒っているのだろう。ぶっきらぼうに答える。
「もう、大丈夫だからって。前に進むからって」
『それって?』
「哲也を想い出にしてきたの。渉にも心配をかけたわね。ごめんね」
『姉ちゃん……大丈夫なのか? 俺、そっちに行こうか?』
「ばかね、子供じゃあるまいし、一人で大丈夫よ。それにこれから……これからお姉ちゃんは好きな人に会いに行くのよ」
それを聞いた渉は、電話の向こうで泣いていた。まったく涙もろくて泣き虫なんだから。これから夫となり、家族を守る男になるのに、そんなことでどうするのだろう情けない。でも優しい子でよかった。
「好きな人が出来たら哲也怒るかな?」
弟だから少しだけ本音を聞いてほしい。誰かに本音を聞いて否定してもらいたいという、ずるい私がまだいる。なんて往生際が悪いのだろう。
『姉ちゃん、俺が哲也さんだったら……多分……安心すると思う。好きな女を守れない歯がゆさよりも、大切な人を誰かに託すほうがいいって、絶対に思うよ。行けよ、姉ちゃん。一ノ瀬さんだろ?』
「……うん……」
結婚をする男は、こうもしっかりするのだろうか。さっきはまだ子供だと言ってごめん。電話を切って、瑞穂に連絡をと思ったけど、きっと渉が電話をしているだろう。話し中が関の山だ。
瑞穂には悪いけど、今は一ノ瀬さんに会いたい。
私の心が、一ノ瀬さんを求めていた。
「夜遅くなっちゃったけど、いいわよね」
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