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誰かにじっと見られている。
瞼に眩しい何かが感じられるけど、目を開けたくない。
眠くて、眠くてどうしようもない。深く、深く、沈んでいきたいほどの眠気だ。
だけど、どうしても視線が気になる。
目を開けたくない、開けたいと、自分で自分と戦いながらも、やっぱり視線が気になった私は、ゆっくりと重い瞼を開けた。
「おはよう」
大きい手の細く長い指で、髪をなでおでこにキスが落ちる。
「……一ノ瀬さん……」
「ゆっくり眠れたのか?」
うんと頷いて、私は一ノ瀬さんに甘える。
そうだった。昨日の夜、私は一ノ瀬さんに抱かれたんだった。
優しい一ノ瀬さんのぬくもりで私を包んで、恋しかったあたたかな夜を過ごした。
哲也を求めて寂しく過ごした夜はもうない。
「おいで」
私を呼んでしっかりと胸に抱いてくれた。
「……私のこと……知ってますよね?」
「……川奈から聞いていた」
「—————ずっと二人には……瑞穂と弟ですけど、心配をかけていました。瑞穂が一ノ瀬さんのことを話すたびに、ああ、話したんだなって、なんとなくわかりました」
一ノ瀬さんの言葉の端はしに、気遣いともとれる言葉があった。
瑞穂は一ノ瀬さんが、私を好きだと言うことを直感で感じていたのだろう。
「彼と桜庭の思い出はずっと胸に秘めておくといい。思い出は二人だけのものだから」
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