眠れない夜をかぞえて

28/35
2287人が本棚に入れています
本棚に追加
/201ページ
誰かにじっと見られている。 瞼に眩しい何かが感じられるけど、目を開けたくない。 眠くて、眠くてどうしようもない。深く、深く、沈んでいきたいほどの眠気だ。 だけど、どうしても視線が気になる。 目を開けたくない、開けたいと、自分で自分と戦いながらも、やっぱり視線が気になった私は、ゆっくりと重い瞼を開けた。 「おはよう」 大きい手の細く長い指で、髪をなでおでこにキスが落ちる。 「……一ノ瀬さん……」 「ゆっくり眠れたのか?」 うんと頷いて、私は一ノ瀬さんに甘える。 そうだった。昨日の夜、私は一ノ瀬さんに抱かれたんだった。 優しい一ノ瀬さんのぬくもりで私を包んで、恋しかったあたたかな夜を過ごした。 哲也を求めて寂しく過ごした夜はもうない。 「おいで」 私を呼んでしっかりと胸に抱いてくれた。 「……私のこと……知ってますよね?」 「……川奈から聞いていた」 「—————ずっと二人には……瑞穂と弟ですけど、心配をかけていました。瑞穂が一ノ瀬さんのことを話すたびに、ああ、話したんだなって、なんとなくわかりました」 一ノ瀬さんの言葉の端はしに、気遣いともとれる言葉があった。 瑞穂は一ノ瀬さんが、私を好きだと言うことを直感で感じていたのだろう。 「彼と桜庭の思い出はずっと胸に秘めておくといい。思い出は二人だけのものだから」
/201ページ

最初のコメントを投稿しよう!