眠れない夜をかぞえて

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優しく言ってくれだけど、私が話したかった。一ノ瀬さんは私と彼の話など、聞きたくないかもしれない。それでも話しておきたかった。 「ずっと私だけが幸せになんかなれるはずがない。彼がそんなことを思っているわけないのに、勝手にそう思っていたんです。エゴですよね。ずっと……私は一人で生きて行くんだと思っていました。彼に会えるのは夢の中だけで、それが嬉しくて、嬉しくて。でも夢に出てくる彼は、悲しい顔をするんです。大好きだったあの笑顔は見せてくれない。眠れなくて、眠れなくて、悲しくて……」 ぽつぽつと話す私を、背中を撫でながら聞いてくれている。それが心地よくて、もっと一ノ瀬さんに縋ってしまう。 「一ノ瀬さんを意識するようになると、夢の中の彼に変化が現れたんです。笑ってくれるようになりました。彼の笑顔が見たかった……私の願いはそれだけだった。彼が私の前からいなくなって7年。やっと笑顔が見られたんです。嬉しかった。なんどもその笑顔を見たくて、夢に出てきて欲しいと願いながら夜を迎えて」 「……」
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