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「やっとわかったんです。彼は私に幸せになってもらいたいんだと。ずっとそれを訴えていたのに、私には伝わらなかった。……何度も一ノ瀬さんに彼を重ねてしまってました。背格好は全く違うのに、何処か彼とかぶるところがあって、彼の名前で一ノ瀬さんを呼びそうになったことが何度もありました」
一ノ瀬さんの目を見て本心を伝えた。
「私は彼を忘れられない、一ノ瀬さんを見て、彼の名前を呼んでしまうかもしれない。いつまでも、いつまでも、彼の姿を追ってしまうかもしれない。それでも、私はあなたが好き」
私の自分勝手な告白にも関わらず、一ノ瀬さんは強く私を引き寄せた。
「好きになる人の好みなんてそうそう変わるもんじゃない。俺を彼に重ねて見えてしまうことは悪いことじゃないし、忘れて欲しいとは思わない。そのままでいいんだよ」
「……」
「何もかも、全部ひっくるめて桜庭が好きなんだ。気の利いたこと何一つ出来ない男だけど、桜庭の安らげる場所にはなれるから」
「……」
「———もう少し眠るか? ずっと傍にいるから」
「お願い……抱きしめて……」
私は一ノ瀬さんの胸を借りて、もう一度眠ることにした。安心できる温かな胸、トクン、トクンと規則正しい鼓動が私を安心させる。私は安らげる場所を見つけたのだ。
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