主人公 ~物を売る-副店長になるまで~

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「みんなぁ~!ただいまぁ!」 担当者の辞令を貰ったのは人事に行く前の店、つまり出戻り。多分人事の意地悪だろう。 「な~んだよ!優秀な担当者が来るって店長が笑ってたの、お前の事かよ!」 相澤君が呆れている。 「はい?相澤マネージャー宜しくお願いいたします」 元気に挨拶をして配属の寿司作業場に入った。 「あらら、早坂さん出戻りぃ~」 皆も笑ってる。 「はい、恵方巻しかやった事ないんで教えてください」 それからは寿司を作って品だしをして、レジが混んだらレジに入っての繰り返し。それでも楽しかった。 ある日品だしをしている時、子連れの家族の会話が聞こえた。 「あれっ?お母さん今日は手巻き寿司じゃなかった?」お父さんらしき人が聞いている。 「だって子供達が握った寿司がいいって」 「ふぅ~ん、なんか味気ないな」 それを聞いて私の頭の回線がビビッと繋がった。バックヤードに走る。 バックヤードでは、相澤君と鮮魚リーダーが相変わらずパンの試食をしている。 「あれ?精肉リーダーは?」 「「いない」」 「ふぅ~ん」私は気にも止めずに原価計算表を出して計算を始めた。 「早坂何やってんの?」 相澤君が聞いて来る。 「シャリ玉を売るの!」 「「はい?しゃり玉?」」 「どんだけ仲いいの!さっきから声揃えて!そっ、しゃり玉。鮮魚の手巻き寿司セットの横にしゃり玉置くの。そうしたら家で手巻き寿司だけじゃなくて握り寿司も出来るじゃない」 「「あぁ~」」 「また揃った!でしゃり玉はしゃり機から出て来るのを詰めるだけで、原価見ても一つ30円で売れるから荒利も撮れる、刺身も売れる、子供も喜ぶ。どうだ!」 「「いいかもしんない」」 「また揃った!それよりちゃんとチェックシー……」 「ハイハイわかってます試食したからね。全く人事に行く前と変わんない事言ってるよ」 鮮魚リーダーが言った。 「しゃり玉かぁ、考えもつかなかったな。そうだよな、売れるし儲かるし」 相澤君が私を見た。 「早坂、言ってやれ!あの言葉」 「鮮魚リーダー!違います?売れて儲かるんじゃなくて、売って儲けるんです!」 「あっ、はい!」 どっちが上司かわからなくなって来た。 「でも精肉リーダーは?最近見てないけど…」 「………」 それから土日限定でしゃり玉販売をした。それが大当たりで地元の広報誌に掲載されたり。会社の報告会で取り上げられたり大成功。
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