悪夢封印

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ゆっくりと瞼が閉じていき、やがて心は寝息を立て始めた。疲れているからか、予想よりも早く眠りに入った。彼女が寝ていることを確認した後、ブレスレットを口に持っていき、瑠海はいつもの台詞を発した。 「長谷川瑠海、ただいまより悪夢封印を開始します」 『了解』 研究所の男からの返事を聞き、瑠海は心の手に自分の手をそっと重ねた。そしてブレスレットのボタンを押すと、世界が真っ暗になった。 再び視界は心の部屋になった。だが先ほどまでの景色とは違う。線香の匂いが鼻に入ってくる。瑠海が目に付いたのは女性の遺影が置いてある仏壇と、その前に座る少女。背中には真っ黒な物体が覆いかぶさっている。悪夢だ。彼女は瑠海の方へ振り向いた。髪は乱れていて、頬には涙が伝った跡がある。 「長谷川さん……」 今にも消えそうな声。瑠海は事態を少しだけ把握した。これが彼女が毎晩見る夢。 「お母さん、交通事故で死んじゃったんです」 彼女はこれが夢だと知らない。現実だと思い込んでいる。瑠海の存在は記憶されているが、悪夢のことはこの彼女の頭にはないのだ。少し間が空いた後、彼女はゆっくりと立ち上がった。 「……行かなきゃ」
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