悪夢封印

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「……お母さんがいない世界に、私はいる必要なんてないから……」 心は涙を拭くとドアに触れ、部屋を出た。瑠海も彼女についていく。動揺してはいけない、しかし絶対に彼女を引き止めなければならない。瑠海は冷静になれと自分に言い聞かせた。 階段を降りると、リビングには食器や料理が乱雑に置かれていた。テーブルの上にはラップのしてある食事があり、鍋の中には具材が残っている。見た目からして数日前に作られたものだろう。 「これは……」 「ごめんなさい、汚くて。あの日から置きっぱなしなんです。でも……お母さんの料理を食べるのも片付けるのも辛くて、ずっとこのまま手付かずで……」 心は食卓からすぐに視線を逸らし、玄関へ向かおうとした。が、それは何者かによって引き止められた。 瑠海は一直線に心の姿を捉える。彼女の細い腕を掴み、ただ黙って立っている。 「長谷川さん……?」 心が問いかけても、瑠海の表情は変わらない。透き通った瞳は他の誰でもない、心を映し出している。腕を掴む力も緩むことなく、しっかりと彼女を押さえている。 「止めないでください。私、行かなきゃいけないので……」
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