悪夢封印

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食事が冷めないようにラップをかけていたのだろう、そんな母親の優しさが瑠海には伝わった。そして、部屋に飾られている思い出の数々からも、母から娘への愛情を感じた。 「お母さんはきっと、あなたを大切に育ててきた。大切なあまり喧嘩になることがあっても、娘のために尽くしてきたことが俺にはわかる。そんな大事な娘が自分の後追いをしようとしていると知ったら……」 目を逸らすこともなく、瞬きさえも忘れて瑠海は静かな声を響かせる。その声は単調でありながらも、芯のあるものだった。 「あなたに子どもがいるとして、自分が亡くなった後、子どもが自殺しようとしていたらどう思うか? 早く天国に来いと思うか?」 彼の問いに、心は歯を食いしばった後ゆっくりと首を横に振った。 「生きて欲しい。あなたのお母さんも俺もそう願っている」 いつもの無表情の中に隠れた温かい瞳。平坦と優しさの混じった声は、心を柔らかく溶かしていった。 「……私、何で死のうとしてたんだろ……今泣いたってどうにもならないのに……今死んだって、お母さんに会えるとは限らないのに……」
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