運命の王子様と婚約者の黒騎士様

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 パーティーや式典で、何度かお見掛けしている姿。  けれどもこうして言葉を交わすのは、たしか、初めて。  私の名を聞いた彼は、ちょっと驚いたようにして、 「ウィセル侯爵の? ……そうか、今日は貴族議会だったか」 「はい。お恥ずかしながら、お父様が会議に必要な資料をお忘れになってしまって。身の空いていた私が届けに参りました」 「そうか。無事に届けられたのか?」  誤解が解けたのか、尋ねるアベル様の声から緊張が消えた。  うっとりと心地よいその音に耳を傾けたくなるのを耐え、私は「ええ」と微笑みを絶やさずに言葉を続ける。 「事情をお話しましたら、フットマンのひとりが快く案内してくださいました。父も間に合ったようで、とても感謝しておりましたわ。役目を終えましたので帰ろうとしたのですが、その、回廊から見えましたこの美しい白薔薇がどうしても気になってしまいまして……」  つい、とバツの悪さに視線を下げた私の頭上から、「そうか」と納得したような声。  勝手に申し訳ございませんと頭を下げると、アベル様は「いや、事情は分かった」と声を和らげて、
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