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「遊ばれそうって――3年もかけて口説こうとする男に? あのね、3年ってどれほどの年月かわかる?」
「……1095日かな」
唯一の特技である算盤で鍛えた暗算を披露してみるも、みやびは取り合わない。
「向井があんたに言い寄り始めたのと同じ頃、あたし前の彼氏と別れたんだよね」
それならよく覚えている。高校生の頃から長年つきあっていた彼と別れたみやびの焦燥っぷりったらなかった。
今は新しい彼氏もできて、立ち直ってるようなので安心してるのだけれど。
「元カレと何かあったの?」
「あいつはね、あのあとつきあった彼女とすぐデキ婚して今子供が二人いて、奥さんが3人目を妊娠中」
衝撃に耳を疑う。3年の間にそんなことができてしまうの――!?
「そしてあたしは今の彼氏にプロポーズされたの」
「えっ、おめでとう!」
思わず顔を綻ばせると「そうじゃなくて!」と幸せいっぱいのはずのみやびが剣呑な表情になる。
「夏希は3年の間に何があった?」
目線を泳がせ思い出してみるが、年末年始にわざわざ実家に帰るのが面倒で一人年越しが恒例になったぐらいだ。
それ以外は何も思い当たらず、髪型すら変えてないことに気づき愕然とする。
「あたしも元カレの話を聞いた時は驚いたわ、たった3年の間に人間3人も作れるんだーって。問題は子供がどうとかじゃないの、それぐらいのことができる年月をあたし達はただぼーっと日々過ごしてきてたってわけ」
それはその通りだ。夏希は神妙な顔になりながら、昨日母親からも散々幼馴染たちの近況を聞かされ、あんたはどうなのとせっつかれたことを思い出した。いつものことなので聞き流していたが、電話の切り際『30までまだ先とか思ってるのかもしれないけど、28過ぎたらこの後あっという間だからね』と呪いのように耳にねじ込まれた言葉が今さら現実味を帯びてくる。
うんうん、とうなずきながらみやびが恐ろしいことを言う。
「人生って加速するの。年齢にkmかけた速さで年取っていくんだって」
「なにそれ」
「三年前の夏希は時速24kmで走ってたってこと。それが今は時速27km、もうすぐ28kmになるんだよ」
子供のころは1年を長く感じていたのに、今ではあっという間というのを考えると少しわかる気がする。
つまり、生まれた時は体感時速0km、1歳で1km、止まっているみたいな速度だったのが毎年1kmずつ加速して、もう28km。これからも加速しながら車の速度で年を取っていくのだ。
加速という響きにうすら寒くなり、夏希は半袖の腕をさすった。
「あ、でもみやびはもう結婚が決まったんだから順調じゃん。いいな」
「まあね、元カレの話聞いて今のうちに彼にはっぱかけとこうと思ったら、想像以上に効果があってね」
ようやくみやびの嬉しそうな笑顔が見れた。会社に入ってから知り合った同期だが、仕事仲間という域を超えて友人になれた唯一の人物だ。天真爛漫というか無邪気というか、思いついたら即実行タイプのみやびは夏希とは正反対の性格だが、今みたいに素直に喜びを表せないところは夏希にも通じるところがあり、二人の気が合う理由なのかもしれない。
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