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「未亜」
父に名前を呼ばれ我に返る。いつまでもドア付近に突っ立っているわけにはいかない。
おもむろに中に入ると父と彼から少し離れたところで、私は立ち止まった。
「娘の未亜だ。未亜、彼はラグエルジャパンの社長令息、朝霧衛士くん」
私は父とも彼とも目を合わさず小さく会釈した。失礼な態度だと自覚はある。けれど、ここで白々しく「はじめまして」と言うほど冷静ではいられない。
居心地の悪さが拭えない。彼はどう思っているのだろう。
「お父さん、話ってなに?」
抑揚なく父に尋ねる。早くこの場を去りたい。その一心で促すと父の口から衝撃的な言葉が飛び出す。
「ゆくゆくは杉井電産を彼に、ラグエルに託すつもりだ」
まさかの内容に私は目を見開いた。父は淡々と説明していく。
「しばらくはラグエルから資本提携を受ける予定だが、結局は後継者問題が出てくる。私には娘のお前だけで、敦のところは子どもがいない」
それは、何年も前からわかっていたことだ。なまじ家業として代々受け継いできた事業である分、血の繋がりを父は大事にしている。
幼い頃から私に、会社を任せられるようなそれなりの相手と結婚しなくてはならないと呪文のように唱え続けられてきたのもそのためだ。
「……杉井電産はなくなるの?」
ようやく顔を上げて父を視界に捉える。
「私もそうはしたくないが、今のままでは厳しい。大勢の社員を守らないとならないんだ」
ベッドの上で上半身を起こして話す父の姿は確実に老いを感じさせる。皺ひとつないワイシャツとオーダーメイドのスーツを着て杉井電産の代表取締役として立つ父も、今回倒れたことでいろいろと思うところがあったのかもしれない。
ここ数年の経営状況や後継者について解決策を考えていたんだ。
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