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杉井電産自体にそこまで思い入れがないにしても曾祖父や祖父、そして父が代々守ってきた会社がなくなるのはやはり複雑だ。
「杉井電産を残す方法はひとつだけある」
私の思考を読んだタイミングで父が静かに言い放った。私は父の顔をじっと見つめる。
「未亜が彼、朝霧衛士くんと結婚するんだ」
しかし父の口から紡がれたのは、到底信じられない提案だった。思考が止まりそうになるほどに。
「……なに言ってるの?」
「お前たちが結婚すれば、買収ではなく業務提携の形で、社長である私の娘の伴侶として彼がラグエルと共に杉井電産を仕切ってもなんら問題ない」
「無理よ。結婚なんてできない」
私は即答した。ここにきてようやく父が彼を同席させて、私を呼びだした理由が判明する。血筋を重んじる父らしいが、無茶苦茶だ。
そこでふと彼と目が合い、私は反射的に視線を逸らす。あからさまなほどに。
そもそも彼の意志はどうなっているのか。彼にはこの結婚のメリットなにもない。
「茉奈のことか?」
不意に父に尋ねられ、心臓が跳ね上がる。父は茉奈の存在を彼に話したんだろうか。
「茉奈?」
不思議そうに彼がおうむ返しをしたので、初耳だと安堵したのも束の間。
「娘は、未婚で子どもがいるんだ。たしか一歳半で」
「お父さん!」
父の説明を、声を張り上げて中断させた。妙な沈黙が走り、私はうつむいたまま捲し立てる。
「杉井電産をどうするのかはお父さんの判断に任せます。でも、ごめんなさい。私は期待に応えられません」
言い終えて私は病室を飛び出した。父は知らない。それどころか彼本人さえ知らない。
茉奈の父親は、ずっとライバル視していたラグエルジャパンの後継者、朝霧衛士だという事実を。
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