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「……そうよ」
たった三文字を口にしただけで、抑え込んでいた感情と共に涙までこぼれそうになる。それを必死で堪えた。
茉奈の父親についてずっと沈黙を守ってきた。父にさえ言えていない。でも――。
「衛士との子どもなの。別れた後に妊娠に気づいて、もう一歳七ヶ月に……」
まさか本人に向かって真実を告げる日が来るとは思わなかった。皮肉にも、やっぱり衛士には嘘をつけない。
伝えてしまった後悔と、抱えていたものを降ろした安堵感が複雑に渦巻く。すると彼にさらに体を抱き寄せられ力強く抱きしめられた。
「未亜、悪かった。たくさん傷つけて、あんな別れ方になったこと。でも俺は」
「やめて!」
衛士の言葉を遮るように私は叫ぶ。驚いた彼が腕の力を緩めた刹那、私は素早く離れ助手席のドアを開けた。
「こ、子どもに会いたいなら、ちゃんと機会を設ける。でも、あなたと関わるのはそれだけだから」
「未亜」
一方的に捲し立てた後、なにか続けようとする衛士を無視して私は車外に出る。ドア閉め、さっさと背を向けて自分の車に足早に向かった。
心臓がうるさくて、無意識に口元を押さえる。いろいろなことがありすぎて頭がついていかない。
もう二度と会わないと決めていた茉奈の父親である衛士と、父の病室で再会するなんて。さらに父からは彼と結婚しろとまで言われるとは。
『未亜』
久しぶりに呼ばれた名前が耳に残っている。付き合っていたときに比べ、彼はより一層素敵になっていた。貫禄が増したとでもいうのか。
スーツをきっちり着こなして、次期社長の顔をしている彼は初めて見たかもしれない。
違う。あれが本来の彼の姿なんだ。私が知らなかっただけ。見せてもらえていなかっただけだ。
痛む胸を押さえ、私は茉奈を迎えに行くため車に乗り込み、陽子さんの家へ急いだ。
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