酒涙雨に誘われた再会

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 たとえばアメリカに拠点を置く電気製品メーカー、ラグエルは比較的新しい企業にも関わらず、その怒涛の成長スピードは目を見張るものがあり、世界的にも注目されている。  さらに長年アメリカのラグエルに勤めた朝霧社長が代表取締役となって日本法人『ラグエルジャパン』を立ち上げた。その勢いは日本国内においての勢いも言わずもがな。  伝統を守ってきた父は一方的にラグエルジャパンを敵対視していた。代表である朝霧(あさぎり)社長から何度か業務提携を求められたりしたようだが、頑なに拒否している。  小学生のときに母を亡くした私は、父に厳しく育てられ、将来は杉井電産の跡を継ぐに相応しい男性と結婚するのだと口を酸っぱくして言われ続けた。  つまり父の選んだ相手しか認められないのだ。それを私は見事に裏切った。  茉奈がお腹にいるとわかったとき、父は激怒して産むなど絶対に許さない、ましてや未婚の母などありえないと激昂した。  父親は誰なのかと尋ねられたが、私は答えられなかった。絶対に父には言えない相手だったから。  彼とはすでに別れていたし、子どもができたとしてもそれを伝えられる相手でももうなかった。やましい付き合いをした覚えは一切ない。後ろ指を指されるいわれもない。  あんなにも誰かを好きになって、愛し愛されたのは初めてだった。けれど愚かな私はそれが全部本物だと信じて疑わなかった。
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