酒涙雨に誘われた再会

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 茉奈を保育園に送っていき、先生に早めに迎えに来る旨などを伝え笑顔で別れる。一歳を過ぎて保育園に預けだした頃は、毎日別れるたびに泣かれてしまい心苦しかった。  でも今は、楽しく保育園生活を送っているようで安心している。お友達も先生も大好きらしく、先生が撮った園生活の写真に写る茉奈はどれも笑っている。  茉奈のためなら、私はなんだってできる。茉奈を生んで初めて知った気持ちがたくさんあった。母親になったんじゃなくて、茉奈が私を母親にしてくれたんだ。  たくさん悩んで不安に押しつぶされそうになったけれど茉奈を授かって私は幸せだ。  余韻に浸る間もなく職場へ急ぐ。心なしか気温もじわじわと上昇してきた。こうなったら早く建物の中に入ってしまいたい。私は今、杉井電産の系列会社で働いていた。  元々、父の強い希望で大学を卒業した後、私は杉井電産の本社に入社した。社長の娘だと色眼鏡で見られないよう、周りに認めてもらうため必死で働き、人一倍努力して与えられる以上の仕事をこなしていった。  けれど、どうしたって好き勝手言ってくる人間はいる。私が社長の娘だからわざわざ声をかけてくる男性もいた。  言い知れぬプレッシャーを隠して仕事に邁進する日々。結局、茉奈の妊娠発覚と父からの勘当騒ぎで私は本社を去ることになり、そのとき私を支えてくれたのが叔父夫婦だった。  叔父は父の弟で杉井電産では専務を務めている。仲がいい叔父夫妻には子どもがおらず、姪である私を昔から娘同然に可愛がってくれていた。
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