酒涙雨に誘われた再会

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 厳しい父とは真逆で、優しく気さくな叔父夫婦には、茉奈を妊娠したときもお世話になった。  迷惑をかけたくないと思いつつ、このときの私は精神的にも体力的にもひとりで抱え込むのは限界だった。  叔父夫婦は茉奈の父親について深く追及はせず、大丈夫だと私を全力で支えてくれた。産前産後はもちろん今もなにかと茉奈と私を気にかけ、サポートしてもらっている。  現在の職場も叔父の計らいだ。  叔父夫婦には足を向けて寝られない。ずっと連絡を断っていた父と和解したのは茉奈が生まれてからで、もちろん叔父が間に入ってくれたからだ。  ぎこちなさが、まったく消えたわけじゃない。わだかまりも多少はある。けれど私にとってはたったひとりの父だ。  なにより茉奈が生まれて、ひとりでも多くの人にこの子を愛してほしいと思った。  それにしても孫の力は偉大だ。常に眉間に皺を寄せているイメージの父は、茉奈を前にすると、すっかりおじいちゃんの顔になる。  驚きを隠せずにいる私に、叔父は『未亜が生まれたときもあんなふうに可愛がって溺愛していた』と教えてくれた。  そんな父が突然、倒れたのが二週間前。会社で心臓発作を起こしそのまま救急車で緊急搬送され、私も茉奈を連れて病院に駆けつけた。  幸い命は助かったものの今までのような無理は禁物だと医師から告げられ、父は秘書に命じて叔父や役員、顧問弁護士などと連絡を取り合い、会社の今後についてベッドの上であれこれ指示を出していた。
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