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1-15.Nightmare:shirt
プラスチックの直方体。
その中で立ち止まる。
変なものに囲まれた。
俺を中心として円を描くは、シャツ。
六枚の色も形も違うそれらは、ふわふわと漂い、付いてくる。
白い半袖のTシャツ。試しに触れてみる。
音もなく俺の服はそれそのものに。
俺の着慣れたロングコートと立ち襟のシャツは円に加わる。
「青くーん!」
聞きなれた苛立つ声。
シャツとシャツの隙間から、赤の姿がちらちらと見え隠れ。
「なにこれ」
「シャツ」
「そうだけどさ」
赤は俺の周りを一周し、シャツを見て回る。
「どれつまんないね」
それは同感。対して特徴もない平凡な服。
「センスないなー」
俺の服といったわけでもないのに若干の屈辱を覚えるのはなぜだろう。
と、シャツが円を広げ、和の中に赤も取り込む。
そして、赤が目を見開く。
「青くん、いつもと服違うじゃん」
「今更?」
「シャツに隠れてよく見えなかったんだもん」
そして、言う。
「ダサっい」
腹を押さえゲラゲラ笑うものだから、右耳から左耳に触手を貫通させてやった。
赤い汁が白いTシャツに飛び散る。
赤はぬるりと身体を溶かし、再生。
「これとか本当に面白みないよね」
白いワイシャツに触れる。
円の中に赤のパーカーが加わる。白いワイシャツは赤の身体に。
「なるほど、そういう仕組み?」
赤が舌なめずりする。目線は俺の服。
触れれば服は交換される。赤は俺の服に触れようとしている。つまり、俺の服を着ようとしている。
考えただけで肌が粟立つ。
触手を沸かし、赤を取り押さえる。
ぎゃーぎゃー騒ぐのをしり目に、俺は自分の服に触れ、無事元通り。
赤は閃光の刃で俺の触手を切り刻む。
触手から青の汁が飛び散り、赤の来ている白いワイシャツは青く染まる。
赤はそれを見て、上機嫌そうにワイシャツを引っ張る。
「見て見て、青くん。今、オレ青くん色に染まってる」
妙にねっとりとした声。気持ち悪いので頭を飛ばした。赤の汁が飛び散る。
白のワイシャツを赤に染め直し。
赤の首なし身体が刃で俺の首を飛ばした。
ワイシャツはまた青くなる。
互いの汁で白いワイシャツを染め合う。切って切られて、ぶち抜いて。
青と赤は交わることなく青と赤。
染めては、染めては、染め直し。
「さすがに疲れた。もうおしまい!」
首を拾い、繋ぎ直す赤が言う。そのワイシャツの色は、赤。
勝った。
一息つくと、気が付くのはあたりの変化。
浮いていたシャツが見当たらない。目線を下げると、地面にシャツの屍。
先ほどの染め合いで流れ弾を受けたらしい。シャツは赤と青の汁で濡れ果て、重みですでに再起不能。
その中に、赤のパーカーも。
「うわあ! こんなの酷い!」
赤がパーカーを抱え込む。触れてももはやシャツは入れ変わらない。
赤は赤い汁に塗れたワイシャツのまま。
パーカーを手にぐずる赤。余程ショックだったらしい。滑稽。
「もうおうち帰る!」
赤はそう言いパーカーを大事そうに抱きしめて、走り去っていった。
そこで違和感。
帰る、と言った。
どこに?
赤が走り去っていった方に顔を向ける。
そこにはすでに何もない。
だが、白い直方体に異変。
波打っている。その白い平面がさざ波のように。
それはすぐに収まった。
俺は直方体に近づき、触れてみる。
いつもの固いプラスチックの感触でしかなかった。
【15.Nightmare:shirt END】
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