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1-17.Nightmare:cloud
いつもより、白い天井が近い。
というのも、雲に乗っているからだ。
青く柔らかな雲。
その上で、俺は暇を持て余している。極上のひと時。
一つ欠伸。一つ異変。一つ瞬き。
天が波打っている。
「うわあ!」
叫び声とともに、波打つ白から現れたのは赤。
急降下。俺に直撃。赤の重みで雲を突き破る。
そのまま地面に落下。ぺしゃんこを通り過ぎ、破裂。
俺は人型を失いぬるりと汁になる。
赤は俺を下敷きにして無事。不服。
「いてて」
いつも通りの赤いパーカーにポニーテールの赤。
だが、確信。こいつはこの世界のものじゃない。つまり、異物だと。
ならば、排除するだけ。
どろりと人型に復活。そして、赤の腹を貫く。
赤は目を見開くが頬を赤く染める。
「青くん、来て早々熱烈なんだから」
それを無視。問いかけ。
「お前、どこから来たんだ」
「あ、今更?」
赤はあっけにとられたように目をぱちくり。
そして、俺の触手からのがれ腹を戻すと、すとんと座る。
と、そこに雲。
青い雲は赤の周りへ。赤はそれを手であやしながら話し出す。
「オレはオレの街からここに来てる」
「街?」
「うん、街」
赤が両手を上げると雲はまとわりつき、そこに雨を降らす。
赤はシャワーを浴びるかのように目を細める。
そんな赤に一言。
「街に帰れ」
「ヤダね」
赤はくすくす。雲も身体を震わす。そこから、袋包みのキャンディ。
包みを開け、赤はぽんっとそれを口に放り込む。そして、俺ににっこり。
「だってさぁ、青くん寂しそうじゃん」
「は?」
「だから、遊びに来てあげてるんだよ」
青かった雲が赤みを帯びていく。
そして、犬のように赤に撫でられている。懐いたらしい。
それとともにはしゃぐ赤。
俺はそんな赤を鼻で笑う。
「寂しいのはお前の方なんじゃないか?」
赤の動きが止まった。
俺を見つめるその目がおかしい。見たことのない顔だ。
そして、ケタケタ笑い出す。
「そうそう、オレ、寂しいの」
見開かれた瞳。
「だから、青くん。ぎゅーってしてよ」
突如絡みついてくる赤い閃光。俺は触手に変形。それを抜け出す。
と、雲が赤に加勢。空に昇り、縄を伸ばす。俺の腕に絡みつける。
赤がふらふらと近寄ってくる。
俺は自らの腕を切り落とす。逃亡。
赤の頭を触手でぶち抜く。
と、雲から槍。俺は貫かれぐちゃぐちゃに。
「青くん、青くん、あーおくん」
気色悪いゆらゆらとした声。赤は俺の汁を手に馴染ませ笑っている。
狂いやがった。いや、元から狂っていたが。
俺は人型に戻り、まずは雲を処理。触手を絡みつけ、沼に引きずり下ろす。
次は赤。
「ぎゅーってしてよ」
絶対嫌だ。
俺はその腕を飛ばし、触手で全身を拘束する。
赤は案外大人しく捕まった。それが不気味だ。
あまりに静かだから、俯いたその顔を覗く。僅かながらに驚く。
泣いている。
「青くんのばぁかぁ」
ぐずぐずと嗚咽をこぼす赤。
触手沼から雲を解放。それが赤に寄り添う。
俺はその横に腰を下ろす。そして、欠伸をした。
【17.Nightmare:cloud END】
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