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1-1.Nightmare:kite
「もういいかい?」
響き渡るうざったい声。
だけど、二か月もすると流石に慣れる。
俺はいつも通りロングコートに手を突っ込み、背を丸くして、大きく欠伸をした。
白いプラスチックが並び立っている。
ビル、一軒家、山、丘、猫。
何でもいい。そんないろんな大きさがあるってことが言いたいだけだ。
ただ、どれも四角。
立方体で直方体。面は六面。正方形に長方形。
光沢のあるプラスチック。
真っ白な空の下、真っ白な地面の上。俺はビルの大きさ、四角の頂上。
一人の時間は落ち着く。はずだった。
「青くん、こんなところにいたんだねぇ」
真っ赤な髪。ポニーテール。赤い目。片方は髪で隠れていて。パーカーにどこかのヒーローのように巻いたマフラー。
振り向かなくても分かる。赤の野郎だ。
苛立ち。感情の高ぶり。プラスチックの地面が青く泡立つ。
ぶくぶくと沸騰するように泡沫を破裂させる。その中から長く、短く、太く、細い蔦の群れ。
青いのがぞろぞろと。それは触手。俺のもの。
俺に抱き着こうとする赤を絡めとり、締め上げる。
「オレにこんなもの絡めてどうしちゃうのー? 青くんのえっち」
「気色悪い声を出すな」
くねくねとした声に嘆息をつく。ポケットに突っ込んだ手を握りこむ。手のひらは触手と連動。
それが赤を締め上げる。
強く、更に、強く。
赤はパァンと派手な音を立て、はち切れた。
やけに派手な赤の汁が飛び散る。それはやがてぬめぬめと粘り、固まり、元の姿に戻る。
「流石にやりすぎじゃない?」
まともぶったその言葉を無視してやる。
「ってか、オレさぁ、何度ももういいかいっていったじゃん。聞こえてたでしょ?」
「聞こえてない」
「かくれんぼしようって言ったじゃん」
「聞いてない」
「えぇ、じゃあしょうがないな」
赤の左手に赤い稲妻が走る。そして、それは奴の手のひらで刃となり、素早く俺に振り下ろされ――。
「使えない耳は切っちゃおうねー」
ぼとん、と俺の左耳が落ちた。そこから青い汁が噴き出る。
「ほらほら、代わりにオレのつけてあげる」
赤は自分の耳を引きちぎり、俺に押し付けてくる。
気持ち悪い。あんなものつけられてたまるか。
俺は触手で自分の耳を拾い、元の場所に引っ付けた。
裂け目は埋まる。みるみる埋まる。すぐに元通り。
「ちぇ、青くんと一つになれると思ったのに」
「黙らないと口に触手突っ込むぞ」
「え、なにそれ。すっごいえっち」
もはや会話する気も失せた。
空から奇声が聞こえた。顔を上げるとトンビがいた。
「うははっ! 人面トンビ」
赤が笑った通りだった。
「気持ち悪いな」
「すっげぇ愉快」
「こっち見てる」
「獲物と思われたんじゃない?」
「じゃあ、仕方ないな」
俺は赤の手から、その耳を奪い取る。
そして、ぽんっと空へ投げ捨てた。
人面トンビは急降下。耳を加えて咀嚼し、ごくん。
「ウマイイイイイイイイイ!」
またもや奇声を発し飛び去って行った。
「よかったな。トンビの餌になれて」
「青くん、酷くない?」
赤は無くなった左耳を押さえる。
手を離した時には、ぽんっと手品のように元通り。
「まあ、でもそんな青くんも大好きだけどね」
バンザイする赤。
「オレの胸に飛び込んでおいで」
むかついたので、触手でその腹を突き破ってやった。
【1.Nightmare:kite END】
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