1-3.Nightmare:mask

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1-3.Nightmare:mask

 白い無機質なプラスチックが乱立する。  その片隅のこれまた白い地面の上で俺は横になっていた。  何の変哲もない色もない空を見上げて。  案外心が休まる。  なぜなら静かだからだ。赤がいないからだ。 「ねえねえ、青くん。これなぁに?」  白の林に突如現れた川が、俺と赤を分断している。  わざとらしいくらいの水色。中には何かが蠢いている。  きっとろくでもないものだ。   だが、俺には関係ない。  せせらぎが赤の声を抑え、ストレス半減。心地よい。 「今からそっち側に行くね」  来るな。  俺はため息をついて、体勢を起こす。地面が沸き立つ。ぼこぼこと。  触手登場。行け。  赤はのんびり屈伸運動。触手を確認。閃光。その手に刃。素早い腕の振り。  無残に刻まれた触手たち。  ちっ。切り落としやがった。 「もう、かまってほしいからってイジワルするなよー。青くんの照れ屋さん」  うざったくてたまらない。  と、川から乱入者。 「なんだこれ」  残念ながら同感だった。  そこに現れたのは、飛び石。川辺と川辺と繋ぐような。  ただ、おかしなそれは白い仮面。黒々とした弧を描く目に、吊り上がった口。 「ひゅー! 面白いものが出てきた」  そう言って赤はぴょんとひと跳ね。  川を渡りだす。仮面を踏みつけて。  赤の重みに耐えきれず、仮面はぱきん。  ぱきん、ぱきん、ぱきん、ぱきん。  赤は小気味よく仮面を踏み踏み、こちらへ近づいてくる。 「とーちゃく!」  岸にたどり着いた。左手を大きく掲げ、高らかに叫んだ赤。川には割れた仮面の死骸。  死屍累々。 「可哀そうだと思わないのか」 「青くんに倫理観問われたくないよ」  確かにそれもそうだ。 「おっと、待って待って待って」  赤の頬に冷や汗が流れる。視線を追うと、そこには白い仮面の大群。 「怒ってるの? 謝るよ? オレ謝るよ?」  後ずさる赤が面白くて、俺は喉奥でくつくつ笑う。  赤が、襲われた。  さすがに面白くて爆笑。 「あはははは! 因果応報!」 「たすけてー」  白い仮面に押し倒され、赤が手足をばたつかせている。くぐもったHELPサインには笑い声を。  しばらくすると満足したのか、仮面たちは引いていく。  大きなプラスチックの立方体にとぷんと沈んでいった。 「ひどい目に遭った……」  そういった赤の顔には白い面。弧を描く目に吊り上がった口。  言葉との違和感にまたこみあげる笑い。 「ちょ、なにこれ」  赤が仮面に触れ、それを引っ張る。 「取れないんだけど⁉」 「最高」  何度も挑戦しているがみしみしと音が鳴るだけで、その仮面は赤から外れようとしない。 「青くん、一生のお願い! 助けて!」  俺は笑い転げていたが、あっという間に飽きた。  それでも赤が騒ぐものだから、鬱陶しくてそれに応じる。 「しばらく俺に近づくな。それで手を打つ」 「分かった、分かったからぁ。結構息苦しいんだって」  死んでも死なないくせに。  俺はため息をついて触手を呼び寄せる。 水面に浮かぶ仮面の死骸。  要するに割ればいいんだろ?  触手を仮面に突き立てた。  仮面は割れた。  だが、勢い余った。 「あ」  触手は赤を貫通。その顔に大きな穴を開ける。  吹き出す赤い汁。  顔面の中央を失った赤。それでも動く口。 「ひどくない?」 「わざとじゃない」  俺は答えた。 【3.Nightmare:mask END】
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