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1-7.Nightmare:centipede
白のプラスチック。それは直方体であり立方体。
今日はそこに、小さな穴。
「ふはは、次はどこだ!」
上機嫌な赤の声。
手に持つは、赤いハンマー。穴から出るは、哀れなムカデ。
赤はムカデを思い切り叩き潰す。
俺はそれをぼんやり観戦。
ムカデは様々な場所からポコポコと顔を出す。
赤はそれを追いかける。
モグラ叩きならぬムカデ叩き。
ムカデの細長い体がぷちっと音を立て、ショッキングピンクの汁が飛ばした。
思わず欠伸が出る。
ムカデが赤の相手をしてくれるから暇だ。その暇こそが至高だ。素晴らしい。
と、俺の目の前に穴が開いた。
そこから顔を覗かせるムカデ。
赤から身を隠すように、俺の影に入る。じっとしている。
俺はそれを観察。
ムカデ。百足。
そんなに足があるように見えない。
「いち、に、さん、し……」
俺は数えだす。
「にじゅうさん――」
「ムカデ見っけ!」
赤が飛び跳ね、そのムカデを踏みつける。
ショッキングピンクの汁を飛ばし、ムカデはあえなく昇天。
若干の不服。真相の解明ができていない。
眉間に皺。苛立ちに足元が青く沸いてくる。
「おっと、ラスボスが来た!」
赤が嬉しそうな声を上げ、空を仰いだ。
視線を追うと、そこには大ムカデ。ビルの高さくらいある。
赤がハンマーに閃光をたぎらせ、飛ぶ。
俺はそんな赤に触手を絡みつけ、地面に叩きつける。
「ちょっと、青くん何するの!」
「少し黙っとけ」
俺はムカデに近寄る。
「じっとしてろよ」
ムカデが頭を上下に動かした。
「いーち、にーい、さーん……」
ムカデの足を数えていく。赤を青く溶けた触手沼に埋めておいて。
沼の中で溺れる赤。滑稽。
大ムカデは頭を振り、小ムカデを呼ぶ。迎えに来たようだ。
そんな中、俺は黙々と、静かに数を読み上げる。
「よんじゅうに」
そこで終わりだった。赤を解放。振り返る。
「百本なかった」
「そんなこと気にしてたの?」
「ムカデだぞ。百の足だぞ」
「ただの例えでしょ」
妙に冷めている赤。むかついたので、触手でひと突き。眉間に穴をあけてやった。
赤い汁の流れる額をさすりながら、赤が言う。
「それで? このムカデさん、もう潰していい?」
「ああ、そんなことか」
ムカデが俺に顔を向ける。
期待のまなざし。
だが、残念。
「勿論、潰していい」
ムカデが方向を変え、一目散に逃げていく。それを赤が追いかける。
赤は閃光。その足に纏わりつけるは光。
逃げ切れるはずがない。
赤は大ムカデに見合った巨大ハンマーをその手に作り上げ、高く高く振り上げた。
派手な破裂音。
ショッキングピンクの汁が、白いプラスチックを染め、小ムカデが四方へ散っていった。
【7.Nightmare:centipede END】
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