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15ー5 闇に堕ちた賢者
「待って!」
俺は、叫びながら飛び起きた。
「セツ!」
俺は、ぎゅっと抱き締められていた。
振り向くと、そこには、エイダスの姿があった。
「気がついたのか、セツ」
「ここ、は?」
俺は、きょときょとと辺りを見回した。
そこは、さっきまで俺たちのいたエイダスの屋敷の部屋だった。
薄明かりの下で、俺は、裸のままエイダスに抱かれていた。
「ほぇっ?」
慌ててじたばたしている俺をエイダスは、ぎゅっと固く抱き締め囁いた。
「お前が、もう、目覚めなかったらどうしようかと思っていた」
はい?
俺は、エイダスに抱かれて彼のことを見上げた。
そこには、さっきまでの悪役宰相は、存在しなかった。
凍えるような目をしていたエイダスは、温もりを取り戻していた。
「かつて、私は、仲間を救うために犠牲になった」
エイダスは、俺を抱き締めたまま話した。
「暗くて、孤独な闇の中に取り残された私は、来る日も来る日も、全身をばらばらにされて死ぬという責め苦を受け続けた」
最初の一年は、耐えられた。
「明日は、皆が助けに来てくれる。そう信じて私は、闇の中で1人耐え続けていた。だが、ある日のことだ」
どのぐらいの時が過ぎたのか。
もう、体を責めさいなむ苦痛も感じなくなるほどになるころ、ふいに、誰かがエイダスに囁いたのだという。
「私のものになるがいい、エイダスよ」
それは、女神アルトディアだった。
あの、魔人を生み出した女神アルトディアの囁きに、エイダスは、それでも抗っていた。
だが。
女神は、エイダスに告げたのだ。
「お前の仲間は、誰も助けにはこない」
女神は、エイダスに、現在の仲間たちの姿を見せた。
勇者アルバートは、世界を救ったともてはやされ、妹のカーミラは、今では王位を継いだルイズと仄かな恋に胸を焦がしている。
「誰も、私を救おうとする者は、いなかった」
エイダスは、淡々と語った。
「それを知ったとたんに私の心は、闇に堕ちたのだ」
女神アルトディアの加護により、閉じ込められていたダンジョンから逃れることができたエイダスは、王都へと戻った。
「みな、歓迎してくれた」
エイダスは、吐き捨てるように話した。
「死んだはずの私が生きて帰ったことに対する戸惑いを覚えながらな」
それでも、まだ、エイダスは、人々を呪いはしていなかった。
「私は、王となったルイズがクレアとの婚約を破棄したことを知って複雑な気持ちだった」
実は、エイダスは、密かにクレアのことを愛していた。
「私は、クレアのもとを訪ね、そして、求婚した。だが、クレアは私のことを拒んだ」
クレアにとっては、従兄弟のエイダスは、兄のような存在にすぎなかった。
「クレアに拒絶されたことで、私は、完全に闇に飲まれた」
それからは、俺の知っている通りのことが起こったのだという。
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