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会議、会議と室内に缶詰にされた出張がようやく終わり、缶ビール片手に乗り込んだ帰りの新幹線の車内にその人はいた。
車内にいる誰よりも輝いていた、嘘のような本当の話、かぐや姫のように神々しく輝いていた。
誰もが目を奪われるような美しさ、整った顔立ち、プロポーション、フルーツのような花のようないい香が離れた俺の所まで漂っていた。
三列後ろに腰を下ろすと、何故だか胸が高鳴りっぱなしだった。
焦げ茶色の髪の毛が空調にサラサラと揺れているのか見える。
こんな美人見たことがない、おそらく物心ついてから見た中で一番の美人だ。
女が金持ちと付き合いたいのと同じように、俺だって美人と付き合いたい。
それをとやかく言う奴がよくいるが、どっちも優秀な遺伝子を残そうと必死なんだ。人間が生まれ持っての本能を誰が責められるというのだ。
とは言っても、あんなに美人だったら彼氏がいるだろう。
でもひょっとしたら今彼氏と別れたばっかりかもしれない。
俺があの美人と釣り合うのか?
いや、でも優しい人が好きと言ってくれるかもしれない。
名古屋から横浜の間、考えに考えた結論は、「どうせ一回しか会わないんだから、ダメ元でアタックだ」という素晴らしくプラス思考のものだった。
名刺を取り出すと、胸元のボールペンで、裏にラインのアカウント名を書いた。
品川を告げるアナウンスが流れたとき、彼女が動き出した、チャンスだ。
彼女より先にデッキに出て、その時を待った。彼女がスーツケースと共に、自動ドアから出てきた。
「すいません、受け取って下さい」
彼女の目の前に名刺を差し出した。
俺の一世一代の大勝負!
だったが、彼女は笑顔で俺に会釈すると、そのまま隣の号車の出口へと行ってしまった。無情にもドアが開き、彼女は新幹線から出て行った。
そして迎えに来ていたやたらと身長の高い男が彼女の荷物を持ち、手をつなぎどこかへと行ってしまった。
新幹線のドアが閉まり、終点東京へと走り出した。
俺は案の定、勝負に負けた。
やっぱりやめとけばよかったな、あの慣れた断り方、こんなこと日常茶飯事なんだろう。
ふと、お姫様を好きになった身の程知らずの門番の話を思い出した。門番は、あの後たしか処刑されたっけな‥‥。
けれど、俺にはこの後何の予定もない。死刑にすらならないだろう。
それにしてもあの長身の男、どこかで見たことがあるような‥‥
ふと、アイドル好きだった妹を思い出す。
あっ、アイツもしかして、そうだ間違いない。
妹が大好きなグループの一人だ。
何故だか、俺の今の状況が笑えてくる。
日本のトップアイドルのオンナをナンパしようとした俺、馬鹿じゃねぇか?
おいしいネタ話ゲットだ、今度飲み会でネタにしよう。
それに妹に会ったら話してやろう。
ほろ酔い気分で、気持ちよく東京駅へと降り立った。
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