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プロローグ
その冬の日のことを、今でもなずなは憶えている。
まだ春にはほんの少し遠い、それでもよく晴れた日。小学校を卒業して中学校に入学するまでの、胸が弾むような、戸惑うような、そんな束の間のひとときに起きた出来事。
――晴朗とした空に、吸いこまれるように白煙が立ち昇る。なずなはただぼんやりとそれを眺めていた。付き添いで来ていただけの彼女を大人たちは気に留めもせず、いまだ火葬場の中でなにやら重苦しい話を続けているのだろう。
いつも間が抜けたふうに振舞う祖父の壱之助が珍しく厳めしい顔をしているのをなずなは横目で見て外へ出てきた。息が詰まりそうだったのと、もうひとつ……よく見慣れた姿が、どこにもないのに気づいたからだ。
だが初めて来た場所で行き先の見当もつかず、ふと頭上にある青と白のコントラストに目が留まって立ち止まった。いまだに、信じられない。ゆるゆると頼りなく立つあの白煙を生み出しているのが――
「ああ、君は繁雄くんの友達の……」
火葬場から出てきた男性に声をかけられ、なずなは振り向く。
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