第一話-なずなとヌン活と安物ジャージ-

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 その意図を悟らせるよりも先に、千十世は手をひらりと振った。 「せっかくだし思う存分羽根のばしなよ、シゲ。じゃあね……なっちゃん、よろしく」  ほとんど言い逃げのように彼がバスの中へ戻ると、扉が閉まり、高速バスが発車した。これから乗車すること数時間、梅田で乗り換えをして、最終的に兵庫県はハチ北高原へと向かうという。  関西圏のスキー旅行で定番スポットだというのに、よくホテルが取れたものだ……となずながしげしげ感嘆しているうちに、バスは角を曲がってもう見えなくなった。  早朝の駅前で人影もまばらな中、なずなと繁雄はぽつんと取り残される。彼女が気まずく感じる前に、繁雄が口を開いた。 「なんやあいつ、珍しく気ィ回しよって」 「う、うん……せやね」 「珍しい言えば、なず……おまえもなんや最近おかしないか?」 「へっ?!」  水を向けられて彼女が二の句を継げないでいると、繁雄が心配そうな顔をした。 「元気ないっちゅーか、上の空っちゅーか……なんかあったんか」  それは、シゲちゃんのあんな顔見たことなかったから。  あんな顔、すきな人に見せているとこなんて見たくなかったから。  瞬間飛び出そうになった醜い本音を、喉の奥に押し込む。それからぎこちなく笑って、急ごしらえした言い訳をしどもどと舌にのせた。 「じ、実は……二学期の成績良ぉなくて、冬期講習行かなあかんねん。今日からやから、イヤやなーって」
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