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エルヴァルド・ハイゼン。
その名を語るには、彼の輝かしい剣闘履歴も添えなければならない。
貴族だった実家が没落して、奴隷剣闘士に堕ちた彼は、十三の歳にコロシアムでデビューした時、最初の対戦相手を秒で降し、観客の度肝を抜いた。
以後、数十数百の対戦を重ねても、黒星は零。白い星の輝きが彼を祝福し、あっという間に自由の身を得る為の金額を得た。
だが、彼はコロシアムを離れる事は無く、戦い続けた。
一度剣を抜けば、蒼い瞳は深海の冷たさで相手を見据え。しなやかな肢体は鹿のように跳ねて敵を翻弄する。
それでいて、勝利に驕る事無く、対戦相手を殺す事も無く、戦闘後には相手の健闘を讃えるその真摯な姿は、好感をもって周囲に受け止められた。
貴族特有のつくりの良い顔も相俟って、
「血生臭い野蛮な行為ですが、エルヴァルド様をこの目にできるなら!」
と、彼目当てにコロシアムを訪れる女性も増えた。
そんな彼に、青天の霹靂のごとく転落の時が訪れた。
『破砕のウォードス』
鋼鉄の棍棒を振り回し、対戦相手の頭蓋を割るまで執拗に攻撃する、各地のコロシアムを渡り歩く悪役。戦闘不能にした相手は数知れず、命を落とした者はもっと知れず。
彼と対戦した時、エルヴァルドは首の骨を折り、無様に地面に崩れ落ちた。
薄れゆく意識の中、ウォードスが不揃いな歯を見せて、『死に損なったなぁ、お坊ちゃん』と唇の動きで嘲笑うのが見えた。
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