0人が本棚に入れています
本棚に追加
エルヴァルドが命を繋ぎ止めたのは、奇跡だった。
だが、身体にとって大事な場所を損傷した代償は大きく、次に目が覚めた時には、首から下が、一切言う事を聞かなくなっていたのだ。
エルヴァルドはみっともないくらいに涙と鼻水を流し、それを拭う事もできない事にさらに落涙した。
そして、生まれて初めてというくらい、はらわたの底から人を憎んだ。
ウォードスが憎い。人の人生を破壊しておいて、金を得て、したり顔で酒と女を堪能しているだろうあの男に、同じ思いを味あわせてやりたい。
いや、それだけでは足りない。地獄に叩き落として、死んだ後も苦しみに包まれれば良い。
「死んでしまえ。のさばる悪を、この手で殺してやりたい」
夜中の病室で独り、呪詛を声にして吐き出した時。
「その燃えたぎる怒り、俺が受け止めてやろうか?」
自分以外誰もいないはずの病室で、誰かが囁きかけたかと思うと、ばん、とひとりでに窓が開き。
長い手足と蝙蝠の翼を持ち、頭には角の生えた誰かが、赤い瞳をこちらに向けて、にい、と細めた。
「俺はお前らが『悪魔』と呼ぶ存在」
悪魔を名乗った者は、楽しそうな声色でエルヴァルドに誘いをかける。
「お前、俺と契約しないか? その身体を動くようにしてやる。憎い相手を殺す力もやる。その代わり、お前が死んだ時には、その魂を俺の自由にさせてもらう」
最初のコメントを投稿しよう!