王者の復活

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 悪魔の伝承は、貴族の子供だった頃、口伝(くでん)として暖炉前で母から聞いた。  魂を売り渡す事と引き換えに、あらゆる願いを叶える存在。しかし、その魂はどこへ行くか誰も知らない。業火に焼かれる苦しみを与えられた後、神の身許で生まれ変わる事もできずに消えてゆくとも言われている。 『だから貴方も、悪魔に出くわしても、絶対に言う事を聞いては駄目ですよ』  母は幼いエルヴァルドの黒髪をすきながら、真剣な眼差しで言い含めた。  だが、その母は神に祈っても救われる事無く、父を陥れた貴族達に連れて行かれた。  神が救ってくれないならば、対極の存在に救いを求めて良いのではないか。  エルヴァルドは悪魔の赤い瞳を見つめ返す。そして、頷く事もできない身体のもどかしさすら込めて、低く、低く、地を這うような声を絞り出した。 「俺の魂が欲しいと言うなら、持っていけ。その代わり、あの男を討つ力を、必ず寄越せ」  母への申し訳無さは、もうエルヴァルドの心には無かった。悪魔が瞳を細めて、満足げに嗤った。  それを見つめるエルヴァルドの心の内でも、激情の炎が、まるで恋に狂った乙女のごとく、激しく燃え上がっていた。
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