不香の花 誠真side

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不香の花 誠真side

『不香の花』 誠真side ふわり、と白いものが視界にちらついた。冷たい。睫毛を震わせるように瞬きすると、雪の結晶が儚く溶けていく。 イルミネーションで飾られた街に舞い散る雪は、人々を浮足立たせる。 とくにクリスマスイブともなれば尚のこと。駅前の大きなクリスマスツリーのそばにぼんやり佇む俺の周りも、そわそわと落ち着かない様子の男女がひしめき合っていた。精一杯のお洒落をして、待ち人が来るのを今か今かと心躍らせている。 すぐ隣に立つ茶髪にゆるくパーマをあてた女の子は、ぐるぐる巻きのマフラーともふもふしたアウターが暖かそうなのに、下はなんとミニスカートに生足だ。膝丈の黒のロングブーツを履いているとはいえ、見ているだけでこちらが寒くなる。お洒落は大変だ。 対する俺は黒いセーターに黒のスラックス、黒の革ブーツ、あと黒マスク。ついでに眼鏡も黒縁とかいう黒づくしの格好をしていた。まぁ、ロングコートの色が青みがかった紺色なのとベージュのマフラーをしているおかげで、不審者っぽさはないだろう。おそらく。 それと俺は用意が良いので、コートのポケットにはホッカイロを忍ばせてきていた。 左手はポケットに突っ込みぬくぬくしつつ、右手でスマホをいじる。繋がったイヤホンからランダムで再生された曲が流れてくる。優しい歌声が魅力的な、男性歌手の片思いの曲だった。届かない気持ちを儚い雪にたとえた、冬の歌。 サビに差し掛かろうかというとき、ポン! と通知音がなる。待ち合わせ相手が連絡を入れてきたようだ。駅に着いたらしい。
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