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エピローグ
「坂本!」
新学期初日。昌明は教室に向かうところで後ろから声をかけられた。振り向くとそこには土田の姿があった。
「これ」
土田はそう言うと、鞄からメダルを取り出した。ブロック大会で勝ち取ったメドレーリレーの金メダルだ。土田は5日間の入院の後に無事食中毒から復活して見事ブロック大会で優勝。全国大会でも8位入賞を果たした。高山中創立以来の快挙だった。
「お前がいなかったらブロック大会優勝もなかったし、全国大会入賞も夢と消えていた。だからお前にも金メダルを見てほしくてな。本当にありがとう」
土田はそう言って金メダルを昌明の目の前へとかざした。目の前にある金メダルは窓から漏れる陽の光を浴びて輝いている。
「触ってみるか?」
「いいの?」
昌明が問いかけると土田は頷いた。
「ただ!」
「ただ、何?」
「齧るのだけはダメだぞ」
土田の一言を受けて昌明は思わず吹き出した。
「みんなの努力の結晶でしょ?齧る訳ないって」
昌明はそう答え、金メダルを手に取った。
やらないといけない。決めないといけない。そんな状況に追い込まれながらも恐れずに、ひるまずにAll-outで臨んだアンカーの大役。正式記録ではないが、稲岡が測った昌明のラップタイムは1分11秒フラット。自己ベストを大きく上回る泳ぎだった。
――よく頑張ったな。昌明。
昌明は心の中で自らを称え、金メダルのずっしりした重みを右手で感じ取った。
【終】
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