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奇跡の世代、奇跡のチーム
4分11秒16
この数字が電光掲示板に灯ったその瞬間、競技を見ていた全ての選手から盛大な拍手が贈られた。2位の学校の最終泳者は未だに残り25m以上ゴールまでの距離を残しており、文字通りの大楽勝。
「来月の県大会も、メドレーリレーは高山中で決まりだな」
「このタイムだと全国出場も夢ではありませんね」
大会関係者も口々にそう語った。
今季の市立高山中学校水泳部には今年、看板選手が4人もいる。1人目の滝沢は100m、200mのバタフライで後続を全く寄せ付けない泳ぎで圧勝し、2人目の瀬戸熊は200mの背泳で大会新記録タイのタイムを叩き出した。3人目の佐々木は200mと400mの個人メドレーの二冠をあっさりとものにし、キャプテンであり自由形がスタイルワンの土田は100mで後続に6秒もの差をつける圧巻の泳ぎを見せつけた。54秒20という記録は文句なく大会新記録だ。
この4人で臨んだメドレーリレーで叩き出された4分11秒16は文句なく大会新記録であり、それどころか全国大会の派遣標準記録を6秒近くも下回っている凄まじいタイムであった。
そんな高山中を率いる今年の顧問は数学教師の稲岡未華子。自身も中学高校と個人メドレーの選手だったこともあってずっと水泳の顧問を続けている。東西南北どこの中学に赴いても結果を出し続ける稲岡はいつしか「鉄の女」と呼ばれるようになっていた。全国大会でも通用するであろうチームに常勝を誇る顧問。今年の高山中水泳部は「奇跡の世代」とも言われ、そしてメドレーリレーのメンバーは4人揃って「奇跡のチーム」と呼ばれるようになった。
高山中水泳部は県大会でも快進撃を続けた。1500mに出場した坂本昌明こそブロック大会への切符を逃したものの、その後はメダルラッシュ。バタフライの滝沢は100mこそ2着に敗れたものの、200mでは1着でゴール。瀬戸熊も背泳ぎで100mで銀メダル、200mで金メダルを勝ち取った。個人メドレーで出場していた佐々木はここでも二冠を達成し、土田は100mの自由形のタイムをさらに0.09秒縮めた自己ベストで金メダルをものにした。入賞者が男女問わず続々と誕生し、4×100mの自由形リレーは男女ともに金メダル。大収穫の3文字が相応しい2日間だった。
「みんな。よく頑張ったね。明日は最終日。メドレーリレーも控えているわ。結果は後から付いてくるもの。まだ試合が終わっていない人は勿論、もう試合が終わった人も応援で自分ができる全てを出し切るの。最後まで頑張っていこうね」
宿泊先のホテルのロビーで稲岡が部員達に檄を飛ばした。
「はい!」
全員一斉に返事が飛ぶ。その中には滝沢、瀬戸熊、佐々木、土田、そして昌明の声もあった。
「じゃあ今日はしっかりご飯を食べて、きちんと睡眠を取ること。ベストのコンディションで臨めるように。では解散」
「はい!」
皆の声はしっかりと張っており、士気がみなぎっていた。誰もが明日もこの快進撃が続くと確信していた。
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