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あの噂話には続きがあった。と言っても、元の噂よりも認知度は低く、しかも低俗だ。
幽霊に取り憑かれた人間は、ライブハウスにいるやつとなら誰とでも寝れるようになるらしい。
それはやや悪意のある噂だった。例えばコウジにしたって、その前に取り憑かれたという噂のあったやつだって、みんな羨ましいくらいにギターがうまかった。
そのことが気に入らない奴らが、こんな噂を流したのだろう。実際ネットの掲示板には、やれどこのバンドのギターがヤリチンだ、浮気野郎だと、根も葉もないことばかりが――そしてときには本当のことが――書き込まれている。
もし噂が本当なら。もしここにいる誰とでも寝れるなら、淳は幽霊に取り憑かれてみたいと思っていた。
「おっ、リハ終わり?おつかれ!」
智浩が振り返り、飾らない笑顔を向ける。
彼に見られたと思うとにわかに体温が上がる。
そうやって気さくに声をかけてくれるのは、淳たちがバーカウンターの向こうにいるからだ。つまり、誰にでもそうするのだ。
淳は思わず、目を背けた。
なぜ彼にだけ、と思う。
いつもなら、気になった奴に声をかけることも、ベッドに誘うことすらも、なんの苦労もなくできる。実際、淳は星の数ほどの女と――ときに男とベッドを共にした。それが智浩にだけは、このザマなのだ。
歳が一回り違うことは理由にはならない。もっと歳の離れた男と寝たこともある。なぜこんなにも上手く行かないのかわからない。それが余計に苛つかせる。
幽霊が取り憑いてくれたら、そいつのせいにして智浩と寝るのに。そしたらきっと、こんな苛立ちすぐにどこかへ行く。
不純な思いを抱えながら、リクとフロアの段差に腰掛ける。Eclipseのリハが終わった。明るく照らされたステージはどこか虚ろだった。
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