16B. グッド・エンド

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 病室の一件から半年が経って、淳はようやく智浩と再開した。  近くのカフェに現れた智浩は、相変わらず格好よかった。あまりにも格好いいので、淳はまだ自分が彼のことを好きだということを思い知った。  よく考えてみれば、智浩は死んだ恋人を12年も思い続けていたのだ。これがあと12年続く可能性に、淳は若干辟易した。と、同時に、初めての深い失恋は、曲を作るときのいいベースになりそうだという、職業病じみた妄想へと転換されもした。  この半年で、淳の弾くギターも、作る曲も、雰囲気は変わった。  マイクからツアーに出ないか、と言われたのは、智浩と再開を果たした直後、四月のことだった。夏、すべての公演に同行してほしい、とのことだった。  そうなるなんて知っていたら、去年怪我で行けなくなったことをあれだけ残念がる必要はなかったかもしれない。  だがあの時は確かにチャンスはあれきりで、翌年のことなど微塵もわからなかった。  つまり、そういうことなのだ、と淳は思い始めていた。  何もかもが変わっていく。それは寂しさの他に、救いも内包しているのだ。  出国前日、智浩に会った。  彼は『これは俺だと思って』と、差し入れの入った紙袋を寄越した。袋には、ハリボーと、あのお守りが入っていた。安全祈願で有名な神社のもので、小さな縮緬の袋には白檀の甘い香りがつけてあった。 『淳、頑張ってね、全米ツアー』 『別に、俺のバンドのツアーじゃないし、』  マイクのバンドのツアーに同行するだけだ。殆どが小さなハコだし、車中泊の予定もある。全体的に低予算の旅である。  それでも、ツアー全てに同行させてもらえるのは、本当に幸運だったし、嬉しかった。  それを智浩が応援してくれているというのは、もちろん複雑な気持ちもあったが、やはり心強いという気持ちが勝っていた。  お守りを見るたびに、彼の顔を思い出す。
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