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17B. バッド・エンド
雨音で目を覚ます。
昼過ぎとは思えない暗さだ。
智浩はぼうっと天井を見上げた。先月買ったガラスのペンダントライトが揺れている。去年のあの病室の日を境に、智浩は工事現場を見て足が震える、ということが、少しずつなくなっていった。
起き上がって、ベッドサイドに置いた水を飲む。
ついさっきまで夢を見ていたような気がするが、目覚めてしまった今、もはや何も思い出せない。ただ夢を見た、という記憶だけが気配になって、雨に閉じられたワンルームをゆったりと漂っていた。
確かなのは、一人で目覚めたということだけだった。
薫も淳も、そして陽一も、智浩のもとを去った。
薫はどこかに消えてしまったし、淳は病室の日から、律儀に半年間顔を見せなかった。ようやく会えたと思ったら、また暫く連絡が来ない。今はアメリカで一ヶ月程度のツアー中だというが、出国前に一度会ったきりで、それから連絡はなかった。
彼なりに格闘しているのだと思う。長年の、実らなかった恋と。
陽一とはもっと長く――それこそ、あの夜から一度も、会っていなかった。連絡すらとっていなかった。
彼は結局、彼女の方を選んだ。きっとそうすると思っていたので、それについてなんら不満はなかった。
彼らの選択を尊重すると決めたのは自分だ。
決めたからには、それに従うだけだ。もう自分にできることは何もない。それはよく分かっている。
ただ、こうして部屋で一人で目覚めるとき、ふと隣に誰かいるのではないか、と思うことが度々あった。それはそのまま欠落感となって、智浩の体の奥に深い闇を落とした。
誰かを恋しいと思うとき、すべての物事がその人に結びついていく瞬間がある。
この道はあの人と歩いたな、とか、これはあの人が使っていたグラスだったな、とか。
智浩のここ一年は、大体がそうだった。
いなくなった彼らの影を踏み続けていた。
だがひとつ、予感のようなものが智浩にはあった。
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