17B. バッド・エンド

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――陽一さん、放っとくと多分、壊れるよ。   あの人には、トモが必要だよ。  淳のあの言葉。  それは予感というよりも、予言に近いのかもしれない。  あの晩、陽一を抱いた理由はそこにあった。  彼は壊れる。だからその心に、先にを入れておいたのだ。  早く壊れるように。  壊れたら、自分のもとに帰ってくるように。  もちろん淳自身は、もっと別の意味で言ったに違いない。だが智浩にはどうしても、それがとても陰惨な予言にしか思えなかった。  ふと、窓の外でゴロゴロという雷の低い音がして、建付けの悪い部屋が揺れはじめる。  光すら見えなかったのに、落ちた音だけはどこまでも広がる。どこに落ちたのだろう。そんなことを考えながら、昼食の準備をしにキッチンに向かった。    ポケットで携帯が鳴る。着信だった。  画面を見た瞬間、その予感が正しかったことをはっきりと理解した。 『……智浩さん、』   久しぶりに聞いた彼の声は、小さく、弱々しかった。 「陽一くん。どうしたの、」  彼は昨日、一人になったことを簡潔に語った。そして、 『会いませんか』  と言った。  ようやくだ、と思った。  ようやくここに、きた。  智浩は穏やかな声で彼を慰め、電話を切った。  陽一は帰ってくる。一年ぶりに。自分がそう仕向けたのだ。  雨は降り止まない。部屋には灰色の陰が満ちている。智浩は込み上げてくる薄ら暗い幸福感を噛み締めながら、昼食の準備を進めた。 (終)
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