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2B. こじらせバンドマン
ライブ終わりの物販で、松河戸淳は女に声をかけられた。
『あのぅ……淳さんのファンなんです』
一言で言って、美人だった。
小柄だがシルエットは肉感的で、それを誇示するような服をわざと着ているようにみえた。バラと苺の混じったような香水の可憐な香りが、またそそる。
淳はそのまま連絡先を交換した。
ここ最近で一番の『アタリ』だった。
それからカジュアルなレストランで最初のデートをした夜、すぐにホテルに行った。
彼女がそうしたいと言ったのだ。何から何までトントン拍子だった。
その時点で警戒するべきだった。
セックスはまあまあだった。初回はこんなもんだ。次回からどう攻めるか。戦略を練っていたときだった。
彼女は柔らかな胸を淳の腕に押し当てながら、甘えた声で囁いた。
『ねぇ、淳さんって、STARGETのリョウスケくんと仲いいの?』
『STARGET』は淳のバンド『kiddie』と同じレーベルに所属している。その関係でよく対バンするバンドだった。付き合いこそ長いが、ジャンルも方向性も全く異なっている。演奏が売りのkiddieに対し、彼らは演奏はそこそこに、あからさまに顔で売っているバンドだった。淳はその売り方が大嫌いだった。
別に最初からそうだったわけではない。ただ、彼らの中でやむをえぬ事情があったのだろう。ある時からそういうやり方になったのだ。
実際、男前揃いだったし、彼らも彼らで見た目の磨き上げには余念がなかった。長所を磨く、その姿勢だけは好感を持っていた。が、好きなところはそれぐらいだった。
彼らは面白いように売れた。
淳は彼女が何を言いたいのかすぐにわかった。
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