如雨露

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貴方は、わたしのために優しくしていなかったことに気付いてしまいました。 貴方の優しさは、貴方自身のさびしさを埋めたいがための優しさだと。 いつも『いつでも頼っておいで』といってくださるのは、決してわたしのためじゃなかったのですね。 思い上がっていました。 そりゃあ、わたしも歳頃の乙女ですから、そんなふうに優しくされたら少しだけ靡きそうになるものです。 『面倒事でも気にせずにいつでも頼っておいで』なんて、弱っているときにいわれたら縋りたくもなります。 だけれども、わたしは薄々『この御方の期待に応えなければ』という無言の重圧も感じてはいました。 塵も積もれば山となる、というようにそれがだんだん貴方の期待に応えるために悩みごとを打ち明けるための悩みごとを探し出すようになりました。 そうすれば、貴方の期待に応えられる。 それに、期待に応えたら貴方は優しくしてくださる。 それが、たとえわたしに向けられていなかったとしても。 ある女性(ひと)は、わたしたちの関係をひどく妬んでいたけれど、わたしはその女性(ひと)と貴方の関係のほうがよほど羨ましいものです。 だって、貴方とその女性(ひと)は友人になれたのですから。 わたしは、友人にすらなれない貴方の如雨露。 どんなに水を注いでも、満たされることなんてないのでしょう。 ねえ。いつまでも、なにも知らないふりをしていたらいいのでしょう。 貴方のさびしさを、どうやったら埋めて差し上げられるのでしょうか。 このままだと、水も枯渇してしまいそう。 なにもなくなったら、貴方はわたしを必要としてくださらないのでしょう。判っています。 わたしたちは、友人ですらないのだから。 なにもなくなったら、いとも容易く切れてしまうような脆くて淡い絆。 いいえ、絆とすらも呼ぶのが危ういですね。 それでも、わたしは枯渇してしまうまで貴方に水を与え続けましょうか。 そうしたら、貴方は優しくしてくださるのだから。 たとえ、それが仮初めの優しさだったとしても貴方に求められるかぎり、わたしは、貴方の期待を裏切ることなんて、できません。 もしも、貴方の期待を裏切る勇気を持てた暁には貴方の手でわたしを手放してください。 大人になれた貴方を、わたしは心からの祝福をいたします。 どうか、いつか貴方に祝福の雨が、降り注ぎますように。
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