風のある日に

1/36
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ

風のある日に

 窓側の席に座って、高層ビルの建ち並ぶ、臨海副都心の景色に夢中になっていると、あっという間に目的地に着いた。ホームに降り、人の流れに乗って改札の外に出る。  海が近い場所だからか、吹き付けてくる風の強さが、始発駅とはまるで違って、旅行にでも来た気分だ。  目の前には、室内アトラクションを備えた巨大ビル、その横には映画館やショッピング施設、臨海副都心の景色を一望できるレストランが入った巨大施設が隣接し、振り返ると大観覧車が見えていた。  わたしは学生だったころ、ドライブデートの鉄板だと聞かされ続けていた場所に、二十四歳にして初めて降り立ったのだった。  辺りを見回したが、待ち合わせの相手はまだいない。次の電車だろうか。わたしは、着きましたよー、と待ち人にメッセージを送った。  家族連れやカップルが、楽しげな足取りでわたしを追い越して、建物の中に吸い込まれていく。今日が日曜だからなのか、一人きりで歩いている人はどこにもいなくて、少しだけ肩身が狭かった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!